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結婚後良好な関係を築けるか、彼女は春日灯に会ってみたくなった。
『灯はどんな人?』
「えっとねー、私達3人を平等に愛してくれる。凄く優しい人だよ。明るくて、料理は下手で天然だけど」
『会ってみたいなぁ。灯』
「駄目」
麗奈が言うと、間髪入れずに否定された。
彼の顔は真剣で、とても冗談には思えず、麗奈は胸にチクリとした痛みを覚えた。
「あ、いや。麗奈とお母さんに問題があるんじゃなくてね?……その」
麗奈がショックを受けている事を察したのか、彼は慌ててフォローを入れて、心の内を話そうとしたが、口篭る。
麗奈は続く言葉を黙って待つ。
「あのね?麗奈がお母さんに取られちゃうんじゃないかなって、お母さん。麗奈の好みだと思うから」
なんだそんなことかと、麗奈はスマホに文章を素早く打ち込む。
彼の不安を払拭してあげるために。
『お姉さん。同性には興味無いよ?』
「え、そうなの?」
母親に会わせたくないと言われた事よりも、そちらの方がショックだった。
『君が可愛いからだけで好きだと思ってる?』
「そんな事ないけど、春日遺伝子の生みの親だよ?ボスだよ?麗奈にとって相性良すぎというか、はわわ」
彼の言葉を遮って、麗奈は彼を抱きしめた。
――そんなこと不安に思う必要もない。私は悠太だから好きになったのだから。
と気持ちを込めて力いっぱい彼の柔肌を抱く。
『可愛い。お姉さんは君と出会った日から君しか見えてないよ』
「ほんと?嬉しいなぁ」
にんまりと笑う彼を見て、麗奈も嬉しくなった。
――――――
料理を作り終えて、沙織を含めた4人でテーブルを囲う。
麗奈はいつも通り彼の隣を陣取っている。
「いただきますっ」
「いただきます」
「御夕飯まで頂いてすみません。いただきます〜」
大黒柱の菜月を一番にいただきますをして夕食の時間が始まった。
「さっきキッチンで盛り上がってたけど、なんのお話で盛り上がってたの?」
麗奈は悠太が作った八宝菜に箸を伸ばす。夕食時は、はっきり話しかけられた時以外、会話に参加しないのが、彼女が自分に課したルールだった。
ご飯を食べながらスマホをいじるのは気が引けるからだ。
「麗奈がお母さんに会ってみたいんだってー」
この場合は悠太が説明してくれるから、任せても大丈夫だろうと判断した。
「……ぁち」
麗奈は白菜を口に入れて、呟いた。
出来たての八宝菜は美味しそうな香りと湯気を出していて、当然ながら熱かった。
それでも彼の作ったものを吐き出すのははばかられる。隣から悠太が水の入ったコップを手渡してくれたので、直ぐに水と一緒に白菜を飲み下した。
舌がヒリヒリとして痛む。彼女は口の中に空気を通して、痛む舌を冷やす。




