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方向性は決まった。悠太も許してくれた。と来れば無問題だと思われた。
が沙織と麗奈は直ぐに、次の問題に直面することになる
、
――菜月になんて言おう。殺されるかもしれない。
――菜月さん、子指一本で許して貰えますかね。
麗奈と沙織の思考だ。仮にこの場が丸く収まったとしても、ブラコンの菜月に、お宅の弟さんを妹さんにしちゃいました。
なんて馬鹿げた釈明をしたら、ぶち殺されてしまうのではないかと、2人は震えた。
「今日。菜月さん何時頃お帰りになるかわかりますか?」
だけども、保護者に説明責任を果たさねば、悠太や菜月の友として胸を張れない。沙織は覚悟を決めて聞いた。
「今が、18時だね。そろそろ家に居るんじゃないかな?ね、麗奈」
『今日はここに泊まろう』
「駄目です。責任は私が負いますので、ちゃんと打ち明けましょう」
先延ばしにしてもいいことは無いのだ。
今日中に戻るならまだしも、何日かかるのか、元に戻るかも分からない。
もし今日戻らなければ、何日もここに留まる訳にはいかない。それに
「ダメだよ麗奈。お姉ちゃんが餓死しちゃう」
この男が姉を放っておくはずがないのだ。
『でも、菜月が怒ったら:( ;´꒳`;):』
温厚で静かな人ほど怒ると怖い。麗奈にとって菜月は、沙織とは別のベクトルで真に清廉潔白を絵に書いたような人物だ。
時折、二面性を見せる時があるものの、温厚が大部分を占めている。
弟の為ならなんだってする。甘やかしの天才。麗奈もよく甘やかしてもらう。そんな菜月が怒ったところを見たことがない。
麗奈は菜月への恐怖心が募り、家に帰りたくなくなっていた。
「大丈夫だって、家出る前も言ったでしょ?菜月お姉ちゃんは喜ぶと思うよ」
『そ、そうかな。でも私と沙織は怒られそう』
「大丈夫。私が庇ってあげるから」
そう言って悠太はぷにぷにの二の腕を曲げて見せた。
『頼りにしてる:( ˙꒳˙ ):』
結局3人は、春日家に行くこととなった。
――――――
3人が家に入ると、リビングでテレビを見る音が聞こえた。
菜月はこの中にいるようだ。
陣形は悠太と麗奈が隣同士で、沙織が少し後ろ、玄関ドアの外に控えている。
「ただいまー」
「遅かったわねー。どこ行ってたの?」
悠太が玄関から声をかけると、菜月がリビングの扉を開けて姿を見せた。
「沙織さんの家に行ってたの。お腹すいた?すぐにご飯を作ろうか?」
「うん。お願いするわねー。お姉ちゃんお腹ぺこぺこ。でも、悠太と麗奈ちゃん成分も補給したいなー」
どうやら、玄関外に位置する沙織は見えていないようだ。
「えへへ、お姉ちゃん。ぎゅー」
「あら、今日は随分素直。ぎゅー」
――え、菜月さん気づいてないんですか?
沙織は、抱き合う3人を他所にそんな事を考えていた。
「あのー……こんばんは〜」
「沙織も来てたの!?ぎゅーしていい?」
「え、あ、いいですけど〜」
沙織がそう言うと菜月は、悠太と、麗奈を抱えたまま手を広げた。
4人で抱き合う不思議空間が、春日家の玄関に広がる。
「菜月さん。悠太くんを見て変化に気づきませんか?」




