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男に戻ったら1番に会いに行こう。今すぐにでも会いたい母を思い浮かべて麗奈の顔を見た。
麗奈は黙って頷いた。
「そうね。男に戻ったら会いに行こうかな。ありがとうね、大吾くん」
「……灯さん?」
「私、悠太。沙織さんの薬のおかげで女になってるけど」
「じ、冗談はやめてくれ。どっからどう見たって灯さんじゃないか!」
「沙織さんの名前、母ちゃんは知ってるの?」
悠太に問われた大吾は、春日夫妻と、高校を卒業以来会ってもいなければ、連絡もとっていない事を思い出した。
悠太に会っていなければ、自分の事は愚か、沙織の事を知っているはずが無いのだ。
「ぁあああああ!!!小僧!貴様!してはならん事をしたな!!」
大吾がドスを構えて吠えた。
「勝手に間違えたのはそっちでしょ!」
自分は悪くないと主張しながら、悠太も臨戦態勢を取る。
「1度ならず2度までも!灯さんの真似をしやがって!」
「今回は体も女の子だから完璧だったでしょ?手くらい握ってあげようか?」
「……ぅ、あ、いいいいらん!」
「……迷わないでよ」
「とにかく今日!ここで!貴様を叩き切ってくれるわ!」
大吾の刃が悠太を襲う。
「ぐおおっ」
「私の部屋で、キモ親父が何をやってるんですか?」
が、ドスが悠太に届くことはなかった。
ドスよりも早く、沙織が悠太に迫るドスを拳銃で弾き、父の土手っ腹に蹴りを叩き込んだからだ。
容赦ない蹴りを食らった大吾は膝を着いて蹲っている。沙織はそれを蹴って退かした。
「悠太くんが来ていると、羽鳥から連絡を貰って、帰ってきてみれば、何をやっているんですかって、聞いてんだよ!」
言葉の繋ぎに暴力を添えて、沙織は父への質問を紡いだ。
返答はくぐもった悲鳴ばかりで答えは無い。父の悲鳴は、大事な人を葬られそうになった沙織を余計に苛立たせた。
「答えないなら撃ち殺しますけど、よろしいですか?わかりました」
返答を待たずして拳銃のセーフティを外して、スライドを引くと、銃口を父に向けた。
「沙織さん!ふざけてただけだから!撃っちゃダメ!」
慌てて止めに入った悠太は、拳銃を持つ沙織の腕にしがみついた。と同時に乾いた音が鳴り、拳銃から弾が発射された。
発射された弾は、大吾の頭のすぐ横を通過し、壁に着弾した。
もう1秒ほど遅かったら、大吾の額に風穴が空いていただろう。
「っち」
沙織は確かに舌打ちをした。彼の耳にもそれは届いていて。
「いやーおっさん。外れて良かったね」
聞こえなかったふりをした。




