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 悠太が目覚めたのは、10分後の事だった。

 健やかに眠る彼の安眠を妨げるように、ドスドスと重みを感じさせる足音を立て、和室の襖をこれでもかと言うほどの力で開け放ち、入ってきた屈強かつ老練の男の叫び声で、彼は起きた。


「沙織の部屋に入りおってー!この不埒ものがぁあ!今日という今日は叩ききってくれるわー!」


 子を持つ親の魂の叫びに、起きていた麗奈は、キーンと耳鳴りを引き起こし、悠太ははね起きて戦闘態勢を取った。


「な、なになに?なにごと?」


 寝ぼけ眼をパチクリさせながらも、目の前でドスを構える男に、拳を向けファイティングポーズで出迎えた。


「なんだ。おっさんか。ってどうした?おーい」

 

 だが目の前の男はドスを構えたまま動かないでは無いか。不審に思った彼は直ぐに戦闘態勢を解き、背伸びをして山本父の前で手を振った。

「……あ、灯さん」


「あぁ、そっか母ちゃんの見た目そっくりだもんね」


 悠太は身長が自分と同じくらいの母の事を思い出していた。


 それから咳払いを一回して、喉の調整を済ます。


「大吾くん。こんにちは〜」

 普段の悠太とは似つかわしくない柔らかく温厚な声に、山本大吾は悠太が灯本人だと錯覚した。


「灯さん……どうして我が家に?」


「いつもうちの悠太がお世話になってるからご挨拶に、ね?麗奈ちゃんに案内して貰って伺わせてもらったんだけど……迷惑だったかな?」


 温厚で柔らかい声に、柔和な笑顔。母を模した態度で語りかけると

「い、いや!大歓迎だ!直ぐにお茶を用意する!」


 突如として目の前に現れた初恋の相手に、大吾は面食らったものの、年甲斐もなく照れた様子で、お茶を用意しに行った。


「んふ、チョロいね」


『チョロいꉂꉂ(>ᗜ<*)』


 悠太と麗奈、2人の悪魔は笑いあった。




 

 しばらくして大吾がお茶と菓子を持って戻ってきた。


「さあよく来てくれた。灯さんのお口に合うか分からんが、どうぞ。麗奈くんもささ」


「んふ。ありがと〜」

『大吾ありがとう』

 お茶を置いた大吾が2人の対面に座った。


 大吾の入れたお茶を、幼少期の母の所作を思い出しながら上品に啜る。


「おいし。ホッとするわね。大吾くんお茶入れるの上手ねー」


 褒められて、ニコッと微笑みを向けられれば、大吾は喜ばずには居られない。


「いやー!たまにしか入れんのだがな!がっはっは!」


「そういえばさっき、不埒ものとか、叩き切るって言ってたけど、うちの悠太が迷惑かけてない?」


「いやいや!灯さんの息子さんは大変立派で聡明で男前じゃないか!迷惑なぞかけられて無いどころか、うちの沙織がお世話になってるくらいだ!」


「そう。ならいいのだけど」


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