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彼との出会いは、彼と彼女の家族が亡くなった公園だった。
そもそも1回目は互いに家族を亡くす程の事件に巻き込まれたから、春日悠太をきちんと認識したのは二度目の出会い。
あの日麗奈は、学校に遅刻した。寝坊して、ふと引きよせられるように公園を訪れていた。
普段なら近寄らない。最愛の妹を失った公園。忌々しい記憶と共に、忘れようと思っても、どれだけ願っても夢に見るほど、脳裏に刻み込まれた光景。
近寄るだけでも、呼吸が浅くなるその場所に、麗奈は居た。
妹に呼ばれた気がしたのだ。
だけども訪れてみても、妹が存在する訳もなく。
ただただ公園の木の匂いが、事件の直前まで妹と遊んでいた砂場が当時を思い出させて、過呼吸気味になり動けなくなった。
嫌な事と言うのは重なるもので、動けなくなった麗奈の元に現れたのは、ニヤニヤと彼女の事を舐めるように見る下卑た男だった。
男は心配する振りをして麗奈の体を狙っていた。
その証拠に、男性恐怖症の麗奈が、口パクで『大丈夫。怖いの。近寄らないで』と言うと、彼女が話せない事を理解した男は、口の端を大きく歪めて笑った。
それから麗奈に乱暴を働こうと、腕を掴んで公園から続く森の方へと、彼女を連れて行こうとした。
そこに現れたのが、悠太だった。
彼もまた、公園の先にあるコンビニへと向かっている最中で、公園を抜けていくか、避けて通るか迷っているところだった。
男の怒声を聞きつけた彼が、男を撃退してくれた。
悠太は小さい体で、麗奈よりも身長の高い男に、立ち向かった。
やりすぎなくらいの暴力で内心怖くもあった。
けれども風に靡く金髪、綺麗な顔。彼の口から「この場所でそんなことしやがって!」と言う言葉から直ぐに、合点がいった。
あの事件で、暴漢から家族を守ろうと、勇敢に戦った彼女が背負っていた弟は、この子だと。
暴漢を殴り倒した彼は、トドメを刺そうと腕を振り上げていた。
これ以上殴ったら殺してしまう。そう思った麗奈は止めずには居られなかった。
男性恐怖症を忘れて腕にしがみついて彼を止めた。
彼は、トドメを辞めると、戦闘での疲労よりもずっと疲弊した様子だった。
腕にしがみついても、彼と話しても、男性なのに怖くない。
邪険に扱われたけど、彼女はこの時から彼の事が気になった。
だから彼女は薄い桃色の唇を開く。眠る彼の綺麗な寝顔に顔を寄せて。
「ゅーぁ、す、き」
掠れたソプラノボイスで、好きになった彼への思いを伝える。
話せなくて、表情も変えられない。自分が出来る最上級の愛情表現で。




