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 彼の健やかな寝顔。頬を軽く撫でて彼女は彼から離れた。

 それからため息を1つ。無表情な彼女の顔は、微かに憂いげを秘めているようだ。


 今までは自分の欲を満たすため、彼を好きにしてきた。

 

 彼のトイレについて行って羞恥に濡れる彼の顔を観察してみたり。お風呂に誘って顔を真っ赤にして拒否する彼を揶揄ってみたり。自分と同じ格好をさせて百合カップルのようなデートを楽しんでみたり。

 と彼が嫌がるのも気にせず好き勝手やってきた。


 彼なら自分の事を好いていてくれる。麗奈には自信があった。

 だけどもその末路がどうだろう。

 彼を女性に変えてしまった。一過性のもので何日かで元に戻るのかも分からなければ、もう治らず女性のまま一生を過ごす事になるのかも分からない。


 彼が女性のままになっても彼を愛し続ける。

 麗奈の決意は固い。けれども悠太の心が女性に寄っていっている。

 彼が完全な女性になった時、自分への好意が薄れて、異性への恋に落ちてしまうのではないかと、麗奈は心配していた。


 ――雪人には会わせたくない。


 麗奈は、忌避していた。

 悠太の事を幼少期から良く知り、白髪でイケメンな、彼からも全幅の信頼を置かれている桜雪人に悠太を合わせることを。


 山本沙織が好きそうな感じの、雰囲気を漂わせる事があるからだ。

 つまりはBL。雪人の一方的な攻めで、悠太も、気持ちわりぃと切って捨てるのだが、性別が変わった今なら……受け入れてしまうかもしれない。


 麗奈は頭を抱えて叫び出したい気分だ。

「ー!ー!」


 実際に大きく口を開いて見たものの、出たのは空気だけ。麗奈の叫びは不発に終わった。


 ――悠太は私のことを好きって言ってくれた。悠太の嘘は顔を見ればわかる。あの言葉に嘘はなかった。だけど、不安を感じてしまうのは何故?今日まで悠太を信じきっていたのに。


 自問自答をしながら、自らの心を掻き乱す。

 繰り返し。繰り返し。答えに近づこうと思考を凝らしていくと、ひとつの答えにたどり着いた。


 ――君が私を振り回すからだ。いつもは私が振り回す側なのに、揶揄って来るから、ペースが乱れる。


  男の時はいつも自分が彼を照れさせてきたのに。


 男らしくありたいという枷を外して、実に女性らしい振る舞いで、笑い方で、たわわな胸を押し当てて、持てる武器の全てをフル活用して揶揄ってくる彼。


 まさか自分が受け手に回るだけで、恥じらいを見せるような乙女になるとは思いもしなかった。


 ――私。もう君しか見えない。君を見ていると胸の高まりが抑えられない。君が女の子でも、男の子でも、どちらでもいい。 この気持ちを声で伝えたいのに、話せないのが切ない。君に色んな表情を見せたいのに、見せられないのが辛いよ。

 

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