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「だからどうしたって言うんですか。伏見はお嬢を見た時からお嬢を、兄貴を見た時から兄貴に命を捧げるって誓ったんです」
「つまりはロリコンってことですね〜。きもちわる」
「イエスロリータノータッチ。伏見は成長を見届けるだけです。お嬢の方こそ、姉御に媚薬を渡したら既成事実を作りに動くって分かっててなんで渡したんです?」
実の所、と言うか見たまんま、沙織も悠太に好意を寄せている。
沙織は腐女子で変態ではあるが分別のある大人だ。
だけども自らが悠太を手に入れるために、動かなかったことに伏見は違和感を感じていた。
「やだなぁ。そこをつっこんできます?普通」
「お嬢に幸せになって貰うのが、伏見の願いですから。何故敵に塩を送るような真似をするのか気になるでしょう。普通」
「悠太くんと麗奈さんは2人で1人ですから。私がそうあって欲しいだけなんですけどね〜。尊いじゃないですか。同じ傷を抱えた2人が寄り添って未来に向かっていくストーリー」
沙織は豊かに表情を変えながら言った。悲しそうな顔。困った顔。優しい顔。
それから真剣な顔に変わる。
「だから私は、あの2人を守るためなら何でもしますよ〜。ちゃんとした大人が見ていて上げないと、まだまだ危なっかしいですからねぇ」
「その為なら自分の恋心は捨てると?」
「私の恋は実りませんからね。今も昔も。分かっていることに労力を使うほど私も子供では無いということですね〜」
「お嬢は兄貴を舐めてやすね」
ポツリ、命知らずな伏見は言った。
「……何?」
当然、飼い犬に手を噛まれた、沙織の瞳には怒りの色が宿る。
眼光鋭く伏見を睨みつけている。
「舐めてるって言ったんです」
それでも臆することなく、自分に対して憮然とした態度を取る付き人に、さらに苛立ちを募らせた。
沙織は自分の懐に手を差し込んで、何かを探った。
「悠太の兄貴は誰かが悲しむような世界なんて作りやせん。1度知り合っちまったら誰であろうと助けずには居られない漢の中の漢。それが春日悠太です」
沙織は付き人が話している最中、懐から拳銃を取り出してセーフティを解除して銃口を彼に向けた。
「恋愛とそれは別の話でしょう」
「悠太の兄貴においては違います。悠太の兄貴はお嬢も幸せにしてくれやす。伏見が見初めた漢ですから」
「もういいです。言いたいことはそれだけですか?眉間に撃ち込むのでちゃんと死んでくださいね?」
減らず口を永遠の意味で閉じさせようとトリガーに指が置かれて、伏見は慌てて取り繕った。
「え!?今結構良いこと言ったつもりなんですが始末するでやんすか!?」
普段のヤクザ口調は崩れて、ただの噛ませ犬のような口調になるほど。
「当たり前です。私の心を揺さぶろうなんて100年早いですよ。それじゃ、来世に期待して出直してきてください」
沙織は躊躇すること無くトリガーを引いた。




