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「いないじゃ無いですかー!」


 春日悠太の家の前で、山本沙織は頭を抱えて叫んだ。

 付き人に連れて来られて、数度インターフォンのボタンを押したが、中には人の気配も無く、玄関の鍵も閉まっていた。


「お嬢。出掛けてるなら薬を使ってる可能性も少ないんじゃありやせんか?」


 付き人に言われて、確かに、と独り言を呟いた。それから「大人のホテルに行ってたらどうするんですかぁあ!」更なる可能性を叫んだ。


「お嬢。子供2人じゃホテルには入れやせん。常識的に。麗奈の姉御ならまだしも、悠太の兄貴は絶対に入れやせん」


 付き人の言ってることに間違いはない。身長148センチの悠太が、年齢確認を掻い潜る術があるはずはなく、入口で叩き出されることだろう。


 付き人は彼の性格上、彼がそのような場所に自分から行くタイプではない事も理解している。

 

 だからこそ、自分の雇い主の娘である山本沙織の凶行は自分が止めねばならぬ。一見すると、山本組に絶対の忠誠を誓っているようにも見えるこの男。

 

 伏見の行動は全ては春日悠太の為である。


「それもそうですね〜。じゃあここでゆっくり待たせてもらいます〜?」


「いえ、草の根を掻き分けてでも探し出しましょう」


「え〜、たまには涼夏さんと女子会でもと思ったんですが〜」


「ここにいて菜月の姉御が先に帰られたらどうするんで?」


 伏見が言うと、沙織はあからさまに、うわ〜と嫌そうな顔をした。

 春日菜月。悠太の姉は極度のブラコンだ。弟の大事なものも大事にするタイプの慈愛に満ちたブラコンだ。

 つまり、悠太の大事にしている麗奈に18禁の媚薬を買い与えて、あまつさえ、媚薬を悠太が服用しているかもしれないと、菜月が知ったら、二重の意味で怒髪天を衝くことになるだろう。


「殺されますよ。お嬢」「伏見が盾になってくれますよね?」「嫌です」


 軽口を叩いているようなやり取りだが本人たちは真面目に自分たちの身を案じている。


「何でですか!伏見は私の付き人でしょう!?」


「お嬢の為には死ねません」

 付き人失格な伏見の発言に、沙織は冷ややかな目で抗議した。


「伏見も、私より……あのクソジジイを取るんですか」


「いえ、悠太の兄貴の為なら命を差し出せますが、オヤジのためには無理です。兄貴に次いでお嬢ならギリギリですが、オヤジだけは勘弁してください」


「無理って、あのクソジジイは雇い主ですよ〜?」


「なんですか。お嬢は仕事に命はれって言うタイプの上司なんですか?今の訴えたら勝てやすよ」


「いえいえ。でも、あなた組の若頭ですよ〜?」

 

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