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『好きならなんで付き合わないの?』
麗奈に見せられた文章は、あくまでも内心を悟られぬように、数十秒ほど考えられてから打たれた文章だった。
この一文を打つのに、いつもの彼女なら数秒とかからない。
「麗奈落ち着いて。私ね。なんて言うか流れとか、ノリで付き合うみたいなのは嫌なの。付き合うなら男としてちゃんと告白してから付き合いたいなーって。こんな体になっておいて、我ながらワガママだね」
けど、この悠太は彼女よりも1枚も2枚も上手だった。
ちゃんと彼女の分かりづらい心の内を読み取った上で、自分の意向をきちんと伝えられた。
男の時の彼は、毎日彼女に翻弄される日々を過ごしていたのに。
『その体にしてしまったのはお姉さんだから。我慢する』
彼女を認めさせた。
「んふ。いい子だねっ」
悠太は母性を感じさせる笑みを浮かべながら、麗奈の頭を優しく撫でた。
『私の方がお姉さん何だからね( *¯ ^¯*)フンッ』
「だって麗奈の頭が撫でやすい位置にあるんだよ?なら撫でるしかないじゃん」
そう、ここまでずっと、彼女は悠太が抱きついて来るのをしゃがんで待っていた。
『君をおんぶする為にしゃがんでたの。もう、早く乗って』
「良いって。自分で歩けるから。むしろ私がおんぶしてあげようか?」
麗奈が固まった。固まってから少しの時間が流れる。
――迷ってる迷ってる。んふ、おんぶしたいって言った時に私の胸を見てたの分かってるんだから。
彼は、麗奈の邪な気持ちに気付いていた。気付いていて、甘えるのも好きな彼女にとって究極の選択を迫った。
『おんぶしてあげる。のって』
――告白するまで我慢してくれるって言ってくれたし。流石に、おんぶされてあげないと可哀想かな?
悠太は疲れている訳では無いが、彼女の気持ちを汲んで背中にかぶさった。
麗奈は彼を背負って立ち上がると、少しよろけたものの、直ぐに歩き出した。
だが直ぐに気付く。
「この状態だと話できないね」
麗奈も気付いていたようで、首を数回縦に振った。
「降ろしてくれてもいいよ?」
今度は横に振った。意地でも彼を背負って歩く決意が、彼女の心の中で固まっているようだ。
なので彼は、麗奈の意思を尊重することにした。
「こうしておんぶされてると昔を思い出すなぁ」
しばらく歩いていると、彼は思い出を口にした。
「葉月姉ちゃんと菜月姉ちゃんと、一緒に公園に遊びに行った帰りはいつも葉月姉ちゃんにおんぶして貰ってたの。暖かくて柔らかくて、いい匂いがするの」
今は戻らないあの頃を思い出しつつ、麗奈の後頭部に頬を当てる。
「麗奈もお姉ちゃんだもんね。おんぶするのは慣れてるのかな?でも私の方が重いから大変?」




