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ここに来るだけでも、大変な労力を使い、数々の羞恥(半分は自分の所為でもある)を味わった悠太はようやく自分の体にあった下着を購入する事に成功した。
――むしろ形が整って余計に爆乳を強調してる気がするんだけど。
店を出てから数百メートルの間に、街行く男の視線を感じていた。
視線の正体は、彼と、彼の隣を歩く彼女の、優れた容姿に自然と惹かれてしまった男性の視線であって、邪な物ではない。
性別が変わるとこうも視線が気になるものなのか、と彼は溜息を吐いた。
「疲れた」
彼が心境を吐露すると、隣を歩いて居た麗奈が、その場にしゃがみ込んだ。
「麗奈も疲れた?」
彼が問いかけると、麗奈は首を横に振った。
『おんぶしてあげる』
「いいよ。疲れたって言っても精神的なものだし、麗奈だって力がある方じゃないでしょ?男の時より少し重くなってるだろうし」
気を使ってくれた彼女に対して、胸を指差しながら答えた。
『大丈夫。お姉さん頑張れる└( 'ω')┘ムキッ』
それが彼女の狙いなのだから、頑張れるのは当たり前だった。
「あはは。麗奈はお姉ちゃんみたいだね」
『お姉さんはいつもお姉さんだよ?』
「周りから見たら今は姉妹に見えるのかな。麗奈って葉月姉ちゃんに似てるから」
『見えるかも?』
「だとしたらやだなー。私は恋人同士に見られたいのに……ってやだ!何言ってるの私!違う!ライバルって言ったの!今のは違うよ?ライバルだからね?」
この体に変わってからというものの、思った事が直ぐに口から出てしまう。
慌てて取り繕って見たはいいものの。彼は麗奈の反応を聞くのが怖かった。
『同性だとしても、雰囲気が葉月に似ていたとしても、本人達ご恋人同士だと主張するなら、それは恋人同士でしょ?』
カッコいい事を言っている麗奈だが、彼の胸目当てにしゃがみ込んだままだ。
「う、うん。ありがと。でも私達付き合ってないよ」
――お姉さんが好きだって言ったのに!?悠太だって恋人同士に見られたいって言ったのに!?
『え?お姉さん達付き合ってないの?』
彼の突然の暴露に心を揺さぶられた麗奈は、自分達の関係性について聞いてみた。
「うん。付き合ってないよー」
対照的に彼はケロッとした様子で答える。
『なんで?:( ;´꒳`;)』
「んふ。私が付き合ってって告白してないから」
――やっぱり告白するのは男の子からでしょ。この見た目だとカッコつかないし
彼は決めていた。
好意を伝えてくれた麗奈に、性別が戻って自身がカッコつけられる最高のタイミングで告白することを。
意外と昭和な性格なのである。
『お姉さん君のこと好きだよ?』
「私も麗奈のこと好きだよ?」




