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彼の幼なじみと友人が結束を深めた頃と時を同じくして、悠太と麗奈は婦人服の店を訪れていた。
ここはデパートの三階の一角に設置された店で、彼と彼女の馴染みの店員Aがいる店だ。
「……こんちは」
「あら、悠太くんと麗奈さん久しぶりねぇ……ええ!?」
悠太の姿を見て店員Aは目を丸くした。
「……む、胸が!小玉スイカ!?」
「あーと、えーと」
悠太の胸を見て驚嘆の声を上げた店員Aに、誤魔化そうと声を上げたが、いい案が浮かばずに、彼の口からは無意味な繋ぎ言葉が漏れるだけだった。
『悠太の妹。由奈って言うの(´・ω・`;)』
すると、すかさず彼の頼れる同居人、麗奈が助け舟を出した。
「へ、へー!悠太くんに妹さんが居たんですねー!びっくりしたー!ついにそっちの道に目覚めたのかと思いました」
今生み出した架空の人物なのだから店員Aが聞いたことがないのは当然。
ちなみに由奈と言う名前も、前に見た映画のヒロインが彼に雰囲気の似ていたからという理由で、唯と麗奈が、からかいついでに付けた、あだ名のような名前である。
「あ、兄とはあまり仲が良くなくてですね」
由奈を演じなくてはならなくなった悠太は、表情の変わらない麗奈を羨ましく思いながら、取り繕うように言葉を発した。
「えー!悠太くん優しくて頼りになるのになー」
「……あははー、兄は捻くれ者ですよ」
仲が悪いはずなのに、自分の事のように謙遜する悠太の表情は誇らしげで、店員Aは目の前にいる巨乳美少女が悠太本人なんじゃないかと仮説を立てた。
「2人ともちょっとよろしいですか?」
こそこそ話をするように顔の前で手招きをして呼び寄せられて2人は、店員Aに顔を寄せた。
「見たところ由奈ちゃんブラを着けていないみたいなんですけど」
店員は囁き声で言った。店内に客は2人しかいないがデリカシーに配慮しての事だった。
『この子ね、こんな大きいのにブラをつけたことないんだって(´・ω・`;)』
店員Aは確信した。由奈の中身が悠太であることに。
「なんですとぉ!それはいけません!こんな形の良くて大きな胸、ちゃんと下着で支えてあげないとダメですよっ」
それでも同じ女性として優しく注意をしてあげる。
悠太に向かって店員が、めっと人差し指を立てた。
そうは言われても今さっき女性になったばかりで女性の体について知識のない悠太にはピンと来ない話だ。




