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「そこは唯が秘書になって上げればいいでしょ?私と唯を足したら食事代だってきちんと2人分だよ?」


『否定は出来ないわねって、なんで私は秘書なのよ!』


「唯は賢いからねー。秘書って愛人のことでしょ?唯にピッタリだよ」


『菜月さんと全国の秘書業やってる人に怒られるわよ。でも……いいかもしれない』


「てことでほっとこーよ。悠くんのこと好きな女子なんかいっぱい居るんだから取り合いしてたら疲れちゃうよ」


『……そうね。そうしましょ』


「よーし!てことでこの話は終わりー。唯何処にいるの?」


『えっと、近くまでは来たのだけど』


 涼夏が悠太の部屋の窓から通りに目を向けると見慣れた姿の唯がスマホを片手に歩いていた。


「じゃあご飯行こうよ!未来の秘書に奢ってあげちゃう!」


『いいわね。お手伝いさん。何処に行くのかしら?』


「雪人さんのお店!」


 元気いっぱいに述べた。


「……はぁ。結局無料飯じゃない」


 この通話で何度聞いたか分からないため息を彼女は流す。


『出世払いだから!悠くんがいつか払ってくれるよ。今行くからそこで待っててね』


 ぷつりと電話を切って彼女はスマホをポケットにしまった。


 ――そりゃあ正妻になれたら私だってなりたいよ?

 でもあの2人の間に割って入るのは無理だもん。私も麗奈さんには幸せになって欲しい。悠くん以外じゃあの人幸せにするのは無理だもん。

 でも、私だって小さい頃から悠くんのこと好きだったんだもん。ずっと近くで見てきたからかっこいい所も可愛い所もいっぱい知ってる。

 

 だから、その責任は取ってもらわなきゃ。



 彼女は誰よりも強かで平和思考の持ち主だった。

 例えるならひとつのパンを争うくらいなら分け合う。だがそれだけじゃない。


「有能な唯なら悠くんを上に押し上げてくれる」


 親友を利用するような発言をするが、悠太が心酔していた姉を亡くして自信や生きる意味を失くした時。彼女は彼が心配で仕方がなかった。

 だからこそ、彼がこちらに帰ってきて麗奈と前を向き始めた時は悩んだ。

 本当は私が彼を幸せにしたい。離れ離れの4年間以外はずっと彼と一緒だったのにパッと現れて自分の立ち位置を彼女にかっさらわれた。

 

 純粋に考えて考えて考え抜いた結果。彼が二度と折れないよう彼に尽くすと涼夏は決めた。


 彼女はぐっと手を握りしめて大きく頷く。


「さてと行こっか」

 窓に映る自分の姿を見て笑顔を作る。天真爛漫で能天気と言われる彼女のいつもの笑顔。


 窓を乗り越えて自分の部屋に帰り身支度を整えるのだった。

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