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時を同じくして春日家の玄関前に、麻波涼夏は立っていた。
闘志を燃やした瞳に、あざとい彼女には似つかわしいへの字に上がった口。
――悠くん、麗奈さん。何があったかわからないけど今助けてあげるからね。
幼なじみと先輩を助ける為に彼女はここに立っている。
息を整えてドアノブに触れる引けば開く……はずだった。
ガチャン
音を立てるだけで扉はびくともしない。
「ありゃ?開かない」
もしかしたら内側から鍵を掛けられているのかもと思った彼女が次に思いついたのが自室の窓からの侵入。
「久しぶりだなーここから入るの」
少し大人になった今、昔とは違って玄関から出入りするのが当たり前になっていた。
懐かしさを感じつつも隣家の窓に手を触れ横にスライドした。
「開いた」
細心の注意を払い音を立てないよう窓から窓へ足を伸ばして乗り越える。
悠太の部屋へ侵入完了だ。
「先制攻撃しないと」
足の速さには自信のある彼女だが、攻撃力には自信がない。
むしろ悠太や、麗奈の友達の琥珀、近所に住むお兄さん的立ち位置の雪人、ヤクザの沙織、彼女の友達の美鈴が武闘派なのがおかしいだけであって、涼夏が普通なのだ。
それでも彼女は覚悟を決めて静かに歩を進める。
彼を助ける為に。
「いないじゃん!」
家中をくまなく探し終わった彼女は叫んだ。
叫んで頬を膨らませながら、唯に文句を言ってやろうと電話をかける。
『……はぁっはぁ、もしもし、っはぁ』
2コールほどで通話が繋がり、電話口の相手は走っているのか少々息が上がっている様子だ。
先程の通話の内容からして春日家に向かって走っているのは明白で、涼夏の溜飲が下がる。
「もしもし唯?悠くんいないみたいだよー?」
『居留守を使ってる可能性はないかしら?』
「ううん。緊急事態だって言うから窓から侵入して家中探したけどだあれもいないよ?」
『まさか……いや、そんな』
「どうしたの?私にも分かるように教えてー?」
『涼夏。落ち着いて聞いて欲しいのだけど』
「うん」
ゴクリと息を呑んで彼女は唯が語る言葉に耳を傾ける。
『悠太くんが麗奈さんに食べられちゃうかもしれないの』
彼女の頭には疑問符が浮かび上がる。悠太は人であって食べ物では無い。
確かに身体能力的に人外な知り合い、友達は数人いるが彼女の認識の中で麗奈も変態チックな所はあるが、カニバリズムに興じるような人では無かった。
「悠くんは食べ物じゃないよ?」
そう。彼女は純粋だった。
『ええ、そうね。貴方に遠回しな言い方は難しかったわね』




