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「私は麗奈が思ってるより麗奈のことが好きって事。好きな人の胸の大きさなんて気にならないでしょ?」
いつもは思っていても言えない事も今の姿に今の心なら言えてしまう。
『悠太。どうしたの?熱下がってない?』
「んーん。なんか言わずには居られなくて、葉月お姉ちゃんみたい。お姉ちゃんも良く好き好きって言ってくれたっけなー」
『お姉さんも、君のこと、その好き、だよ』
「家族として、でしょ?わかってるよー」
言いながら胸の奥にチクリとした痛みを覚えた。
それでも彼は続ける。
「私の事いつも妹みたいに可愛がってくれるもんね。今は本当に女の子になっちゃったけど。へへ」
にへらと笑いながら。麗奈が違うとスマホに書いては消してを繰り返しているのを知らずに。
押し殺してきた感情の濁流を抑えきれない。
「でも、女の子なら妹としてずっと一緒に居られるかな」
麗奈は視線を合わせてくれない。彼女が何を考えているのかいつもはわかるけれど読めない。
『お姉さんの妹は真姫だけだから』
返された文章を見て、悠太は少し目頭が熱くなったが指で抑えて涙を堪える。
「そ、そうだよね。ごめんね」
――千秋がお姉ちゃんって言った時は受け入れてたのに。
小学生で彼と彼女の妹分である千秋は妹として受け入れたのに何故自分は駄目なのか。彼にはわからなかった。
どちらからも話出せずに静寂の時が過ぎる。
悠太も、麗奈も並んで立ったまま、歩く事もせずに立ち止まっていた。
『行こっか』
短い文章で麗奈が見せきた。
「うん」
悠太も短く返した。顔を見ず下を向いたまま。
ただ、麗奈は無言で悠太の手を取って歩き出した。
先を歩く麗奈の耳は真っ赤に染まっていたが彼は下を向いていて気付かない。
「麗奈の手。暖かいね」
彼は片手で胸を押さえて、もう片手を引かれながら幸せそうな顔で言った。
その顔を麗奈は振り返って見てはくれず、ズンズンと先導するように前を歩いてくれる。
――怒らせたかな。でも手を繋いでくれてる。
「わっ!どうしたの?」
突然立ち止まった麗奈に困惑しながら声を掛けた。
麗奈は1度手を離したと思ったら上着を脱いで悠太の肩に掛けてきた。
『お姉さんの服の方がサイズ大きいからそれで胸を隠すといいよ(。 ー`ωー´) キラン☆』
「麗奈っ」
麗奈は内心ドキドキしていた。
彼は感極まって顔を上げたからだ。満面の笑みを添えて。
いつも愛らしく、素直では無い悠太が自分に向けてこんなにも感情表現を素直に表情に乗せて見せてくれる。




