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 麗奈には、沙織の震える手で靴下を握る姿が、餌を待つ犬のように見えて、嗜虐心が疼いた。


『約束のブツを貰うのが先だよ(o´艸`)』


 だからもう一度待てをしてやると、沙織は焦り、

「すすす、すみません」

 

 と謝り、がたついた手で錠剤の入った袋を差し出してきた。

 麗奈は内心ほくそ笑む。ブツを受け取る。


『吸っていいよ』

 沙織はジップロックを破る勢いで開けた。顔を突っ込む。肺いっぱいに吸い込んだ。


「あぁあ!!!!フルーティぃぃぃぃい!!!!」


 雄叫びが響く。

「あぁ……甘美な香り」

 彼女の目は幻覚に囚われたようだった。


 沙織の蕩けた表情を見て、麗奈は摘み食いした時のことを思い出した。

 下腹部がキュンキュンと疼きだし、腰が抜けて立てなくなった。


(私のお下がりだけどね)

 

 心の中で毒づき、麗奈は白い錠剤を見つめた。悠太が乱れる姿を想像する。心が疼く。


(女の子みたいに乱れる悠太がみたい。果てたくて、果てたくてたまんなくなった悠太を――――ッ!)


 傍から見たらイケナイお薬をキメていそうなこの光景は、件の男の子が見たら、きっと無言でこの2人と縁を切ることは間違いない。

 

 これこそが、外見はとても綺麗だけど中身はやばい人と、沙織のことを総評する理由だ。

 野暮ったい眼鏡をつけてはいるものの、垂れ目に艶黒子がチャーミングな整った顔立ちに、胸だって麗奈とは比べ物にならないくらい大きい。

 ちゃんとした格好をして外に出れば街ゆく男が思わず息を飲むほどの美人。その内情は腐女子であり、麗奈の同居人である男の娘を付け狙う変態。


 それでも彼女の手助けなしでは、媚薬は手に入らなかった。


『沙織、ありがとう。用事は済んだから帰るね』

 

 妄想からいち早く帰ってきた彼女は、薬の効果をいち早く試そうと沙織に別れを告げたが、沙織は変わらず、靴下を鼻に押し付けて息を荒くしている。


(完全にとんでるね)

 

 麗奈は苦笑いをしたつもりで、立ち上がると山本組の客間を後にした。




――――――――――――――

沙織を放置して、麗奈は晴天の空の下を歩いている。

良い天気に楽しみな事、スキップをしてしまいそうなくらい、麗奈の足取りは軽く、頭の中は不埒なことでいっぱいだ。


もしここで知り合いに出会ったなら、彼女は聞こえなかったフリをしてでも帰るだろう。


「あら、麗奈さんこんにちは」


麗奈にとって見知った顔の女性が声を掛けたが、勿論足を早めて通り過ぎた。

一刻も早く家に帰る。それだけが彼女の脳を支配していた。


「麗奈さーん!これから春日くんの家に向かうのだけれど」


 麗奈は思わず足を止めた。

 彼のクラスメイトが家にやってくるとあっては、無視を決め込むことが出来なくなった。

 彼女に知られるのは非常にマズイ。上手く追い払う術はないか、麗奈は桃色の頭脳をフル回転させる。


立ち止まったまま、固まった麗奈に、佐藤唯(さとうゆい)は困惑の表情を浮かべた。頬をかいて、麗奈に歩み寄る。


「麗奈さん?」

 唯が麗奈の前に回り込み顔を覗き込んだ。

 無表情なので表情からは何を考えてるか読み取れず、唯はただただ困惑してしまう。


 麗奈の眉がぴくりと動いた。この状況を打破する一手を思い付いたのだろう。


『 唯。悪い事は言わない、今日は来ない方がいい』


「え、何かあったのかしら!?」

神妙な顔(無表情)で何の変化球でもない直球ドストレートな言葉を投げかけられた。

 唯は口に手を当てて驚きの声を上げた。


『実は今日、悠太が生理で……』


「男の子が……生理?」


 唯から猜疑心たっぷりのジトっとした眼差しが向けられる。

 常時ポーカーフェイスじゃなければ、見抜かれていたかもしれない。

 文章を打つ指だけ気をつけていれば悟られるはずもない。


『唯は弟がいないから知らないと思うけど、男にも生理はある』

 麗奈は至って冷静なフリをした。

 

「それで?どんな症状があるんですか?」

 

『まずはアレの先っぽから血が出る。ここは女の子と一緒、それから人によって違うらしいけど情緒不安定になる。悠太はそれが酷い』

 

「悠太くんの場合は……どうなるのかしら?」


『性欲が強くなる。目の前に女性がいたら間違いなく襲う。でも悠太は紳士だから生理になる前に自分を手錠で動けなくして引きこもってる。』

 

「なっ!?えっ!?」

 

 唯が赤面した。仲がいい男子は彼しかおらず、男の体について知識が乏しい。彼女は初心なのだ。

 

『だから私は辛そうにしている悠太を介護しなきゃいけない。唯も大人しく家に帰って私の無事を願っていて欲しい』


 嘘八百を超えて嘘八千である。

 普通であればこんな嘘を信じる人間は居ない。

 だが、唯は彼の事となると周りが見えなくなってしまう。麗奈のお馬鹿な嘘でさえも信じてしまうほどに。

 

 唯は意を決した。「うん」

 深く頷いて、信念のこもった力強い視線を麗奈に向けた。

 

「麗奈さんは女性として魅力的すぎるから……私が」

 

 彼のためなら、体を差し出したって構わない。どんな結果になろうとも。

 

『その必要は無い。それに唯のその凶暴な胸の方が危険だよ』

 麗奈は何を言われるのか予想はついていた。唯が言い切る前に切って捨てた。


「なっ!私の胸が凶暴!?」

 同年代の女性と比べて、たわわに実った胸を恥ずかしそうに抱きしめた。

 唯の一連の行動に、貧乳の麗奈はこめかみに青筋を浮かべる。

 だが今日は唯に構ってられない。麗奈はここで畳み掛ける事にした。



『沙織もお薬を渡してくれたらいいよ(o´艸`)』


 まだかまだかと、手を震わせて餌を待つ犬のように、麗奈の返事を待つ彼女に、麗奈先に約束の物を渡すようせがんだ。

「私とした事が失念してました」

震えが増し、がたつく手で沙織は錠剤の入った袋を麗奈に渡した。

麗奈は薬を受け取り、OKサインを出す。


『取引成立だね。思う存分堪能して』


 文章を確認するや否や、沙織はジップロックの封をあけた。男の娘の芳醇な香りを逃すまいと鼻息荒く、肺いっぱいの空気を吸い込んだ。


「あぁあ!!!!フルーティぃぃぃぃい!!!!」


 沙織は雄叫びをあげながら天を仰いだ。続けてこれがこの世の楽園か、と呟いた沙織には何か幻覚が見えているのかもしれない。

そして今度は落ち着いて、スーッと鼻から息を吸う彼女の顔はうっとりと蕩けている。


――これを使えば私も悠太と、ふふふ。


一方の麗奈も袋に入った白い錠剤を眺め、男の娘とのこれからを妄想し悦に浸っていた。


傍から見たらイケナイお薬をしていそうなこの光景を、件の男の子が見たら、きっと無言でこの2人と縁を切ることは間違いない。


「うふふふふふ」

妄想と妄想が交差する。


妄想の彼方へと飛んで行った沙織を放置し、山本家を出た麗奈はいち早く帰路へと着くため、晴天の空の下を歩いている。

良い天気に楽しみな事、スキップでもし始めそうなほど麗奈の足取りは軽く、頭の中は不埒なことでいっぱいだ。


もしここで知り合いに出会ったなら彼女は聞こえなかったフリをしてでも帰るだろう。


「あら、麗奈さんこんにちは」


 見知った顔の女性が麗奈に声を掛けたが、足を早めて通り過ぎた。勿論わざとである。

 一刻も早く家に帰る。それだけが彼女の脳を支配している。


「麗奈さーん!これから春日くんの家に向かうのだけれど」


 女性の一言に麗奈は思わず足を止めた。

 これから行おうとしてることが事なだけに、家まで来られるとマズイ。なんとか上手く追い払う術はないかと桃色の頭脳をフル回転させる。


 立ち止まったまま、こちらを振り向こうともしない麗奈に、佐藤唯(さとうゆい)は困惑の表情を浮かべて、手で頬をかくと麗奈に歩み寄った。


「麗奈さん?」

 唯は動かない麗奈を不思議に思った。前に回り込んで顔を覗き込んだが、普段から無表情なので、表情から麗奈が何を考えてるか読み取れない。

 唯はただただ困惑の表情を浮かべる。


麗奈の眉がぴくりと動いた。この状況を打破する一手を思い付いたのだろう。


『 唯。悪い事は言わない、今日は来ない方がいい』


「え、何かあったのかしら!?」

神妙な顔(無表情)で何の変化球でもない直球ドストレートな言葉を投げかけられた唯は口に手を当てて驚きの声を上げた。


『実は今日、悠太が生理で……』


流石に無理のある嘘に、唯は麗奈に疑いの眼差しを向けた。


疑いの眼差しを受けて、麗奈はスマホに文章を打ち込んでいく。その姿には一切の焦りは無い。


『唯は弟がいないから知らないと思うけど、男にも生理はある』


「男が……生理??」


保健体育で習ったことの無い男の生理に、唯は首を傾げながら質問を投げかけた。


『そう、生理』


「どんな症状があるのかしら?」


まさかとは思うが、念の為、唯は質問をしてみる事にした。


『まずはアレの先っぽから血が出る。ここは女の子と一緒、それから人によって違うらしいけど情緒不安定になる。悠太はそれが酷い』

「悠太くんの場合は……どうなるのかしら?」


『性欲が強くなる。目の前に女性がいたら間違いなく襲う。でも悠太は紳士だから生理になる前に自分を手錠で動けなくして引きこもってる。』

「なっ!?えっ!?」

唯が赤面した。仲がいい男子は悠太くらいしかいないくらいに彼女は初心なのだ。もっとも麗奈も同じ穴のムジナなのだが…。


『だから私は辛そうにしている悠太を介護しなきゃいけない。唯も大人しく家に帰って私の無事を願っていて欲しい』


嘘八百を超えて嘘八千である。普通であればこんな嘘を信じる人間は居ないはずなのだが、悠太の事となると周りが見えなくなってしまう事に定評のある唯は違ったようだ。意を決したように、うん、と1つ頷いて麗奈の目を見た。

「麗奈さんは女性として魅力的すぎるから……私が」

『その必要は無い。それに唯のその凶暴な胸の方が危険だよ』

次に何を言われるのか予想していたようで唯が言い切る前に切って捨てた。


「なっ!私の胸が凶暴!?」

同年代の女性と比べ、たわわに実った胸を唯が恥ずかしそうに抱きしめた。

この唯が起こした一連の行動は麗奈のこめかみに青筋を浮かべることになるのだが、今日は構ってられない。と麗奈はここで畳み掛ける事にした。


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