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「そうだったわ、この話は後にしましょ」
――助かった。
涼夏はほくそ笑んだ。時間が経てば唯は怒りを忘れてしまうからだ。
何度説教の途中で逃げ出したことか。下手な言い訳が通じてよかった。
涼夏はそんなことを考えていた。
「それで急ぎのようってなんなのさ」
話が戻らないように唯の言葉を急かす。
「ええ、もしかしたらなのだけど、悠太くんが危険かもしれないの」
「悠くんが?」
――また面倒なことにでも巻き込まれたかな。
――午前中に会った時は普通だったんだけどな。
涼夏の幼馴染で隣家に住んでいる春日悠太は、優しい性格からか面倒ごとに巻き込まれやすい。
巻き込まれるというよりは、自ら突っ込んでいくタイプだ。
涼夏の友人でクラスメイトの宝井静香の家庭の事情から始まり、大企業の社長と命の削りあいなど、とても高校生の身の丈では解決できないことを拳で解決してきた。
――今更隠し事はしないと思うんだけどなぁ。
唯の次の言葉を待つ。
「ええ。大ピンチよ。きっと」
涼夏の顔から冷や汗が頬を伝い落ちる。
彼女には、唯がくだらない嘘をつくとは思えなかった。
おちゃらけモードから真剣モードに頭の中を切り替え、唯に問いかける。
「一体全体何があったの?」
「説明はあとよ。今すぐ悠太くんの家に行ってくれるかしら?」
「合点承知!」
「私も今向かっているから……15分ぐらいで行けるわ」
「了解!私が先に行って制圧しておくね!!」
「あなたに任せるわ……不届き者には正義の鉄槌を」
「任せて!じゃ!行ってくる!」
通話を切る。きゅっと拳を握り込んで気合いを入れる。
大丈夫、怖くない。やれる。
涼夏は意気込んで部屋を飛び出した。
――――――――――――
春日家。
遠回りをし続けた2人は、ようやく準備を終えて出掛けようと靴を履いている。
「涼夏達には見つからないようにしないとな」
幼なじみと、その友人達に見つかれば、いじり倒されるのは間違いない。
そう踏んだ悠太はパーカーのフードを深めに被った。
『じゃあ行こうか!^ ̳ට ̫ ට ̳^』
反対に、顔を丸出しのまま、目立つ容姿を隠そうともしない同居人に、悠太は大袈裟にため息をつく。
「……はぁぁ、お前もフードを被るんだよ!」
『君が被せてくれるなら……いいよ(/ω\*)』
スマートフォンを見せてから、グイッと体を寄せてきた麗奈に、悠太は手を伸ばす。
「ったく」
フードを掴む寸前で手が止まる。悠太の顔がみるみる赤みを帯びていく。
――ちけえんだよ!しかも抱きついてるみたいで恥ずかしい!




