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 今から春日家に行っても間に合わないかもしれない。それでも、何もせず、彼を麗奈に取られるわけにはいかない。


「騙し討ちなんて卑怯よ」


 毒づきながら、ポケットにスマホを入れ、出かけにいつも持ち歩いている手提げカバンを乱暴に掴み上げ、部屋を出る。

「……パソコンつけっぱなしだったわね」


 扉を閉めかけたところで気付いた彼女は律儀にもパソコンと部屋の電気を消してから家を出た。もちろん、玄関の鍵も忘れずに閉めた。


――私が着く前に事に及んでないかしら。


 早足に歩きながら唯は、想い人の心配をしている。


――ここは涼夏に協力してもらいましょ。


 唯はポケットからスマホを取り出して、親友に電話をかけた。




 ――――――――――――――――――――――――


 春日家の隣 麻波家


 

 「あれ?電話だ〜。んん〜」


 自室で机に向かい、勉強に勤しんでいた麻波涼夏は突然かかってきた電話に、集中力を切らした。彼女は固まった筋肉の緊張を背筋を伸ばす。

 パキパキっと背骨が小気味のいい音を立てる。それからゆっくりと腕を下ろしてスマホを手に取った。


「唯からか〜」

 今日何か悪いことしたっけ。涼夏は眉を顰めて思案する。

 唯のお菓子勝手に食べたり、スカート捲ったり、お弁当のおかずを強奪したり、やりたい放題だった。


 だが、どれもちゃんと怒られたので、違う。電話がかかってくるほどではない。


 愛想を尽かされて絶縁の電話。とは微塵も考えてはいない。

 

 考えているうちに、着信音が止んだ。次の瞬間には次の着信が飛んできた。

 

「やばいよー!唯めっちゃ怒ってる!?なんで?何がバレた?バレてないこと、バレてないこと」


 そもそも怒って電話をかけてきているとは限らないのだが、彼女は日頃からいたずらをしては唯を怒らせてばかりだ。

 なので、この電話もいたずら関連と勘違いしているようだ。


「なんだろ……今日は全部怒られたはずなんだけどなあ」


 逆に、この時間の使い方で怒られそうなものだ。


「あー!あれかー!」


 バレていないイタズラを思い出して、通話ボタンを力強く押した。


「よかった。繋がった涼夏今何して」「借りた教科書に落書きしてごめん!!!!!………………へ?」


 ほぼ同時に発声し、考えが行き違ったことに気づいた間抜けは間抜けな声を上げた。


「涼夏〜〜!あなたねぇ……!」


 怒気を孕んだ唯の声に、涼夏は毛穴から脂汗が吹き出して来るのを感じつつ、言い訳を考えた。


「だって秀吉だよ!猿だよ猿!落書きしたくなるじゃん!」


「あのねえ、そう言うのは自分のでやりなさいよ!!あなたはいつもいつも」


「あっ、ちがっ、そ、そうだ、唯。なにか焦ってたんじゃないの?」


 

 

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