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「私に変な薬を飲ませた事は怒られるかもしれないけど、多分残念がると思うよ」
『残念?』
麗奈は首を傾げた。
「お姉ちゃんなら私も悠太の女の子の姿を見たかったーって言うだろうねあはは……あれ?」
可愛らしく口に手を当てて笑った悠太だが、自分らしからぬ喋り口調に違和感を覚えたようだ。
対面する麗奈も同様、口をぽかんと空けて惚けている。
「マジ?」
『意識してなかったならマジだね:( ;´꒳`;):』
「口調が女みたいになってる!!なんで?どうしてなの?じゃなくてどうしてなんだよ!」
心が体に着いてきている。と言った方が正しいのだろうか。新たな異変だ。
「これはマジでやばいね、さっさと行こう」
『うん』
完全に心まで女の子になる前に、直さなくては行けない。
2人は手を繋いで、洗面室を出た。
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「やっぱ嘘じゃないの」
佐藤唯は自室に置かれたパソコンの前で呟いた。
画面には大手検索サイトのトップページが開かれている。
「サジェストの1番上に男の日、嘘がきてるんだもの」
昼間に会った友人の嘘に、彼女は少し険しい表情を浮かべた。
「念の為調べてみるとしましょう」
エンターキーを押すと、検索の結果が現れた。
どれも、5月5日の男の子の日についてのページが主で、マウスホイールを回して画面をスクロールしていくも、某大手掲示板のまとめブログ等のおふざけ記事ばかりで、真実は一つもない。
もちろん麗奈がその場で思いついた嘘だから男の子の日なんて存在しないのだが、唯が知るよしもない。
唯は唇に人差し指をあて、考える。
「漢字が悪いのかしら」
思いついた男の娘の日という文字を打ち直して再び検索をかけた。
トップには如何わしいイラストの数々、と次に刺激的な文字の羅列。
唯は溜息を1つ吐いた。
何故麗奈は自分を騙すようなことをしたのだろうか。
珍しく上機嫌な様子で歩いてるところを見かけたので話しかけてみたら、気づいていないのか、はたまた無視しているのか、振り返りすらしなかった。
――そういえば、私が悠太くんに会いに行くって話したら、指先が焦っていたような。
唯は常時無表情、最強のポーカーフェイスである麗奈の焦りを見破っていた。
その時は悠太の看病で焦っていたのかと思って見逃したけども、怪しい。
悠太とはもちろん麗奈ともそれなりに仲良くなっていたのに。
まるで自分を邪魔者扱いするような麗奈の行動。
――もしかして、悠太くんに何かする気じゃ……!
唯はガタッと椅子で音をたて立ち上がった。
時計を睨む。時刻は18時。麗奈と会ったのは昼過ぎ、もう4時間くらいは経っている。




