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『こないだも私を見て太った?とか抜かしやがって……ちくしょう』
自分の口癖を真似をされた悠太がプッと吹き出したのを見て、麗奈は無表情の目を細めた。
『君もお姉さんが太ったって笑ってるの!?』
文章を見せてから、麗奈は両手で悠太の頬をグイーと引っ張った。
「ちげえよ!ゆいにいふぁらいいふぁねないふぉおもっただけ」
雪兄なら言いかねないと思っただけ。
言葉にならない言葉で言い訳をするが、彼女の手は止まることなく、悠太の柔らかいほっぺを上下に伸ばしたり、左右に引っ張ったりしている。
「たのしんれんふぁれーよ、いふぁいいふぁい」
麗奈は悠太の頬を引っ張ったまま、悠太の目をじっと見つめた。それから数秒経ってようやく手を離した。
『本当……?』
「本当だ。そもそもお前太ってないし」
悠太は胸を張って答えた。
「なんつうか、手とか脚とか長いし……スラっとしてスタイル?もいいと思うぞ」
言われた麗奈の表情は変わらず。ただ耳は彼女の心情を表すように真っ赤に染まっている。
『君は、恥ずかしくなるくらいなら言わなければいいのに』
「うっせ、そういうお前も耳……赤いぞ」
悠太の顔ももちろん赤く、瞳はうるうるとうるんでいる。
『普段なら絶対そんなこと言わないのに、女の子になったから?』
「わかんねーけど、感情のコントロールは効かない気がする」
恥ずかしさで涙の浮かんだ悠太の瞳を麗奈は服の袖口で拭い、彼の頭を撫でる。
「割とマジで自分の体が自分じゃねえみてえだ」
感情で言うなら今までなら、これくらいの距離で密着されたらドキドキしていたのに、そういったものもない。
彼は自身の制御出来なくなった感情に心が揺さぶられている。
――もしからしたら。
「麗奈。俺お前のこと好きだぞ」
彼は顔を俯かせ、呟くように言った。好きという特別な感情を忘れないように。
麗奈はスマホを開くこともせず、こくりと頷いてから、悠太の頭を胸に押し当てるようにして抱いた。
悠太も抵抗することなく耳を澄ませ、彼女の心音を聞いている。
トクン、トクン、トクン。彼女が生きている証。聞いていると揺れ動いていた心が段々と落ち着く。
「ありがとう麗奈。落ち着いてきたよ。そろそろ沙織さんのとこ言ってみようか。姉ちゃんが帰ってくる前に」
時計を確認する。時刻は既に18時を刻んでいる。
彼の姉、春日菜月が帰ってくるのが、20時頃。タイムリミットはあと2時間。
『菜月に悠太を女の子にしたって言ったら殺されるかな(((((; • ̀д•́))))カタカタカタカタカタカタカタ』




