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「なあ、あの薬ってまだあるのか?」
テキパキと改造されていく自分の顔を鏡越しに見ながら、悠太は麗奈に質問を投げかけた。
――もう1錠あるなら、親父の伝を辿って研究してもらうのもありかもしれねえな。もっとも、沙織さんが分からなければの保険だけど。
悠太の質問に、麗奈は首を横に振って答えた。
――なら、やっぱ沙織さんだけが頼りか。
「なあ、お前やけにルンルンだけど本当に薬の効果知らなかったんだよな?」
――媚薬って認識だったしな。
今度は首を縦に振って答える。
「じゃあなんでそんなにご機嫌なんだよ」
はて、と麗奈は首を傾げた。
普段から無表情で言葉の話せない麗奈の機嫌は、ほぼ常日頃から一緒に行動している悠太にとっては、一目見ただけで見抜ける。
最近見た中でも上々上機嫌だったようだ。
――まあ、多分、化粧を楽しんでるだけだろ。
彼女にとっては見当違いな答えで納得し、悠太はお化粧タイムが終わるまで口を噤んだ。
「男の時より葉月姉ちゃんそっくりだな。まるで双子だぞ」
完成した顔を見た悠太の口から出たのは亡くなった姉の名前だった。
春日葉月。享年17歳。彼の最愛の、彼と同じ金髪だった姉。
亡くなったのは4年前。彼が12歳の時の話だ。
葉月、菜月、悠太の3人で、近所の公園で遊んでいた時、悲劇は彼らを襲った。
通り魔が現れ、彼の姉と麗奈の妹の命を奪っていった。
――俺は鏡を見れば姉ちゃんを感じられるけど、こいつは。
後ろに立つ麗奈を鏡越しに見やる。
『お姉さんも鏡を見たら真姫に会えるよ*⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝*ワンダホォォォォイそっくりだったからね\(❁´∀`❁)』
「言ってねえのになんでバレた?」
『悠太の考えてることなんて手に取るようにわかるよ( ´ u ` )』
「思考を読むんじゃねえよ」
『だって麗奈可哀想って顔に書いてあったからヾ(=д= ;)』
「……ごめん」
『なんで謝るの?(´・ω・`)悠太はお姉さんに気を使ってくれただけでしょ?』
麗奈の手が悠太の髪を撫でる。
ゆったりとした手つき、暖かな手の温もりに、安心というのだろうか、心が満たされていくような感覚があった。
――姉ちゃん
悠太は麗奈に葉月の面影を重ねたようだ。
「でも、悪い気にさせたかなって、思って」
『悠太がお姉さんを思ってしてくれたことならお姉さんは嬉しいよ?(=^▽^)σ』
『雪人が言ってきたなら拳を出さざるを得ないけど……( *`ω´)』
麗奈の言葉に、幼馴染の1人で料理人、頼れるお兄さん的存在の顔を思い浮かべた。
「雪兄は空気読めねえからな。絶望的に」




