春キャベツ、サラダ向きです
むしゃむしゃむしゃむしゃ
旦那がひたすらにキャベツを食べている。何の気なしに作ったキャベツのサラダが彼の中で大ヒットしたそうで、週に二回は作っている。
「おいしい?」
「とても」
そう、簡潔に答えて彼はキャベツに戻る。むしゃむしゃもしゃもしゃ。
もちろん他の料理も食べている。ごはん、豚の生姜焼き、わかめと豆腐の味噌汁、切り干し大根の煮物。安定と信頼の和食メニューだけど、いい歳の我々夫婦には十分だし、食べ盛りの子供たちも肉と米があれば問題なしと機嫌よく食べていた。
キャベツのサラダはおそらくかけているドレッシングがヒットしたものと思われる。それが春キャベツの柔らかさに合っていたのであろう。ドレッシングはアンチョビとマヨネーズに卵を混ぜた簡単なものだけど、彼曰くシンプルイズベストなのだそうだ。わからなくはない。歳を重ねると、ごちゃごちゃしたものより、あっさりしていたり、素材そのものや、そこに少し塩を振るだけで十分になる。
私に先日ヒットしたのは茹でたブロッコリーだった。塩茹でしてちぎったモッツァレラチーズを乗せてオリーブオイルと粗塩をかけただけのサラダがとにもかくにもおいしかった。また作りたいけどブロッコリーが安いときにスーパーに行けていない。
そんなことを考えている間も彼はひたすらキャベツを食べている。もしかして胃を悪くしていたりするのだろうか。生のキャベツには胃を修復する作用がある。人間、足りない栄養があるとそれを含む食べ物を欲するという。
「胃の調子はどうかしら」
「至って良好だよ」
それは元から良好なのか、はたまた最近のキャベツ生活で良好なのか、判断に困るところだ。
「ねえ」
「なあに?」
「そろそろ春キャベツは終わりかな」
少し考える。そうかもしれない。
「そうかも」
「じゃあ終わりにしよう」
唐突な宣言だった。もちろんキャベツのサラダを終えることに異論はない。私も子供もあれば食べるけど、彼ほどの熱意はない。しいて言うなら定番のメニューが一つ消えたことで私のメニュー検討時間が増えるくらいだろうか。
「もう十分食べた気がするんだ」
「ええそうね。じゃあ今期のキャベツサラダはお終い。来期までしばしお暇をいただきます」
そんなふざけたことを言って食卓の片付けに取り掛かる。