日本人、こぞって海外好き
今日は空港掃除のバイトの日だ。GWいっぱいで止める予定なのであと数回でこの仕事も終わりである。しかし今日は忙しい。GW前ということもあり、めちゃくちゃ混んでいるのだ。
「浅井さん、もう少ししたら次の便が到着するからそれまでにここは終えちゃいたい」
「承知しました。急ぎます」
先輩である井口さんと全速力でモップをかけていく。急がねばまた人が来る。ここに人が来る前に次の掃除場所に移る。一日中それの繰り返しだ。そして飛行機が来ない時でもこれから飛行機に乗る人たちで常に混み混みだ。はかどるものもはかどらないけど、それでも根を上げるわけにはいかず、黙ってモップを握っている。
「いやー、混んでましたね」
「これからGWいっぱいまでどんどん人が増え続けるよ」
「きっつー。だから春休み終わりに辞める人が多かったんですね」
「そうそう。だから浅井さんがGWいっぱいまで残ってくれて助かったよ」
そう言って井口さんは笑ってくれた。短期バイトに過ぎないわたしでも何かの役に立てるなら嬉しいものだ。GWはとても大変らしいけど、それでも手当てがつくので頑張りたいところだ。それ以降は大学受験に集中しなくてはいけないから余計にね。
「学校どう?」
「普通です。でも先生たちが受験についてあれこれ脅してくるのが嫌ですね」
「ああ、そういうのあるね。受験も大学も通過点に過ぎないのに」
井口さんはサラッとそう言った。そう、どちらも通過点に過ぎない。だというのにあんなに大仰に失敗は万死に値するみたいな言い方をしなくてもいいじゃないか。わたしが変な顔をしていたのか、近くに座る井口さんは、苦笑して続けた。
「そりゃ学校のランクはあるけどね。高いランクの学校の方が選択肢は当然広まるし。でもそこがゴールじゃないから、そこんとこは認識しないとダメだね」
「でもわたしその先にやりたいこととかないです」
そう、別に何にもない。大人になってやりたいこと。どんな仕事したいかとか、そういうの、なーんにもない。
「仕事に限定しないほうがいいよ」
そうなの? 将来の夢=就きたい仕事、そういう風に言われてばかりで、そういうものだと思っていたけれど。
「例えば趣味を頑張りたければ就業時間が短い仕事を探すとかさ。それに大学は勉強するところだと俺は思うしね。仕事の準備をするところじゃない。もちろん学びを職につなげるのはありだと思うけど」
「……そう、ですね」
なんか視野が広がった気がする。もう少し考えよう。わたしのやりたいこと。
「まずは帰ってお風呂に入りたいです」
「じゃあもうひと頑張りしようか」
そう言われて二人で立ち上がる。後半戦はこれからだ。