さっき見たあの子
ずっと気になっている子がいた。本家にたまに来るあの子。さっきも見かけた。多分年は同じくらいだろう。盆暮れ正月くらいしか見ないから分家の子だろうか。
僕は本家の次男。だから家そのものは兄が継ぐけど、その補佐として育てられている。つまらないね。本当に。やりたいことはない。だってあってもできない。だからやりたいことは作らない。
でもあの子のことは知りたいと思った。
「ねえ」
「?」
ある時のお盆休み。やはり本家に来ていたその子に声をかける。振り向いた彼女は訝し気な顔でこちらを見ている。
「分家の人?」
「うん。あなたは?」
……その子は僕のことを知らなかった。本家の人間なのに。長男じゃないから。
「本家の……」
「ああ、次男の子ね。聞いているわ。わたしと同い年でしょう?」
「知ってるの?」
その子はにこっと笑った。すごくかわいくて胸が痛くなった。
「ええ。好みの顔だなって思っていたから、あれは誰かパパに聞いたの」
ええ。どう受け取ればいのかわからない。分家とか本家とか跡継ぎとか長男次男、そういうことではなく顔? ちょっと何を言っているんだろう。
「え、でもあなたは? って」
「パパは彼は本家の人で~とかどうでもいい事しか言わないの。そうじゃないわ。それはあなたのラベリングであって、あなたの個人的な内側ではない。わたしが知りたいのはあなたの名前であり、好きなもの嫌いなもの好きな場所好きな食べ物苦手な食べ物好きな本好きな教科、そういうことよ」
「……君、変わってるって言われない?」
彼女の怒涛のマシンガントークになんとかそれだけを聞き返す。するととても魅力的な笑顔で
「ええ言われるわ。でもわたしとあなたは違う人間であり、他の人とも全員違うわ。変わっているのが当たり前でしょっていうと大体黙るわね」
と答えた。
「あのさ」
「うん」
「ぼくは算数が得意で社会が苦手なんだ。夏休みの宿題持ってきてるでしょ。一緒にやろう」
そう言うと彼女は面食らったような顔をした。
「……」
「嫌かな」
「ううん。一緒にやるわ。わたし絵日記を溜めてしまっているの。本家に来てから何があったか教えて」
そうして僕らの関係は始まった。