まだ見ていたいが、もう片付けなければ
引っ越し準備をしていたら古い写真が何枚か出てきた。昔の、気が遠くなるような昔の写真。一番上の写真は小さい子供が二人、手をつないで笑っている。両方女の子のように見えて、なるほど彼女が俺を女の子だと思っていたわけだと今更ながらに気付く。
その次の写真は小学校の入学式だろうか。桜が舞う校門の前で男の子が一人で半泣きで映っている。思い出した。幼馴染と一緒に小学校に通うと思っていたのに自分が引っ越してしまい、一緒に通えなくて泣いたんだ。その次は小学校の卒業式、それから中学校の入学式。
その後の高校の入学式の写真ではまた幼馴染と二人で写っている。彼女と再会したのは高校の入学式当日だった。親の仕事の都合で生まれたころに住んでいた地域に戻ってその辺りで平均的な学力の高校を選んだ。高校登校初日でかなり緊張しながら歩いていたら調子っぱずれな歌が聞こえてきて脱力したのを覚えている。うっかり下手糞だと言ってしまい、振り返った女子生徒の顔を見て息が止まりそうなくらい驚いたことも。
彼女は俺のことを忘れてはいなかった。性別を間違えてはいたけれど。それから高校三年間を幼馴染として過ごし、大学四年間を恋人として過ごし、社会人になってからは婚約者として過ごしてきた。残る写真の全てに彼女が一緒に写っている。
まだ見ていたいけど、そろそろ片付けなくては。もう残された時間は少ないし、彼女を待たせるわけにはいかない。
「いーちゃん! 片付け終わったー?」
「もう少しだ! けいちゃんは?」
「あと……5年くらいかな?」
「長い!」
さっさと片付けて彼女の手伝いをしよう。明後日には引越しが待っているのだ。俺と彼女は長年住み慣れた家を離れて高齢者向けマンションへと引っ越す。この家については娘夫婦がリフォームの後に入居するとのことだった。
俺と彼女が出会ってから62年。俺と彼女の年齢と同じだ。高校で再開したときはまさかそこまでいくとは思わなかったけれど。気が付いたらここまで来たし、子供らも独立して所帯を持って孫までいる。
だとすれば俺と彼女がやるべきことは一つだけ。2人でのんびり、写真でも見ながら話そうじゃないか。