では一杯だけ
「では、ご相伴に預かりましょう」
そう言って同僚の女性は穏やかな笑顔でコップを傾ける。これが地獄の始まりだと、周囲の鼻を伸ばした男共は気づきもしない。まあ、良い薬になるんじゃないかな……彼女の酒癖の悪さを知る私は少し離れたところでウーロン茶をすする。
「えー私にだって選ぶ権利はあるんですよ?」
あー……始まった。彼女にワンチャンあるか? などと言い寄っていた男性が撃沈している。その後、体型についてのコメントに
「やだー、今時セクハラですよ、それ。じゃあ私も『今日も頭頂部輝いてますね!』って褒めましょうか?」
彼氏がいない事へのヤジに
「だって、先輩みたいな下品な質問する男と付き合いたくないですし」
キツい返しへの苦情に
「反論される覚悟もなしにセクハラしてるんですか? 軟弱では?」
と、好き放題言っている。まあ、もう少しで彼女も飽きてこちらに来るだろう。……と、言っている側からジョッキ片手に彼女が笑顔で隣に座る。
「お疲れ様でーす」
「はいよ、おつかれ」
「マジウザかったですよお」
「これに懲りてしばらくは絡まれないとイイネ」
「うーん。どうですかねえ」
彼女曰く、酒の席で追い払ってもそれはそれ、と都合良く解釈されて、職場での絡みは減らないらしい。むしろ毒舌の彼女が自分だけにかわいいことを言って欲しい……と余計に絡まれると。
「ええ……ウザ……」
「ホントですよ! ウザウザです。なんとかなりませんかね」
眉間に皺を寄せてジョッキを煽る彼女を眺める。なんで絡まれるかっていうと、大人しそうな外見が舐められるから……な、わけで。
「外見を変える」
「?」
はてなを飛ばす彼女に耳打ちをする。合点がいって爆笑する彼女に笑って見せた。
そして週明けの月曜日。職場では男性陣が阿鼻叫喚に陥っていた。だってそうだろう。みんなのアイドル(笑)だった清楚な美人が金髪ショートカットでパンクメイクなのだから。
「あ、おはよーございまーす!」
「おはよ。めっちゃ似合う。かわいい」
「おかげさまで! 快適です!」
そうピースする彼女は、今までで一番かわいかった。




