夕涼み、君も一緒にどうだい?
その日の授業を終えて寮に戻る。課題も終わらせ夕ごはんも食べて風呂に入る。さあ、後は寝るだけ……というタイミングで寮の玄関で来客を告げる音がなった。
「はーい、どちらさま……?」
「こんばんは。今よろしいですか?」
「あ、先輩。今日はお店が忙しかったのでは?」
やってきた白銀のくせっ毛を持つ先輩。先輩はカフェの経営をしていて、今日はなんだかのイベントがあるから忙しいのだと言っていた。だからいつもだったらカフェにお邪魔して課題を教えてもらったりするけど、イベントでいつもより客が増えるのに客単価の低いあたしがいたら邪魔かな……と遠慮したのだ。
「ええ。イベントは大盛況で終えましたよ。ですが、常連がいないと店員が騒ぐので、こうして様子を見に来た次第です」
「わざわざまた。人が多いときに居たら邪魔かと思って遠慮しました」
そう言うと先輩はそれはそれは、大きなため息を吐いた。
「あなたって人は……ほんっとうに、馬鹿なんですね」
「え」
「ここまで馬鹿だとは……。まあ、良いです。これ、味見をお願いします」
差し出されたのはカフェのロゴの入った紙袋。そして中にはケーキ用の箱。……もしかしてイベントで出す予定だと言っていたケーキだろうか。
「では夜分に失礼しました」
「ま、待って下さい!」
踵を返す先輩を慌てて引き留める。
「これ、一緒に食べませんか!? 紅茶、入れますので!」
「……」
「先輩と、一緒に食べたいです」
先輩はさっきより小さくため息を吐く。それから困った顔で笑った。
「仕方の無い人ですね。美味しい紅茶、期待していますよ」
「はい! お任せ下さい!」
紅茶を入れて、テラスへ出る。夜風が気持ちいい。
「「いただきます」」
ケーキと紅茶を挟んで先輩と向かい合う。柔らかい月明かりに照らされた先輩の顔はいつもより優しい様に見えた。
「……わあ、おいしい!」
「当然です。特別なケーキなのですから」
「特別?」
首をかしげると先輩はいつも通りの強気な笑顔で続ける。
「そうです。あなたの出身地で特産だと言っていたフルーツをふんだんに盛り込みました。もちろん隠し味も入っていますが……それは企業秘密です」
「ああ、だからなんだか懐かしい味がするんですね」
「ええ。あなたへの『特別』なケーキですよ」
その先輩の顔を見て、あたしはやっぱり、この人のことが好きだと思う。この人の『特別』になりたいと思った。




