日焼けするなって、言われてもね
暑い最中、お師匠様から言いつかったお使いを済ませて戻ると、来客がいた。
「おや、姫君ではないですか」
「お邪魔しています。ここは涼しくて良いですね」
次の春に結婚が決まっている彼女はそれに向けてドレスの用意やら、隣国の情勢を勉強している。そして美しい肌を保つべく『日焼け厳禁』を母親である女王様から厳命されていた。しかし出歩くのが好きな彼女は既に暇を持て余していて、日差しがきつくなってからはよく、この場内にあるお師匠様の依拠に顔を出していた。
「お師匠様は?」
「彼女は母上に呼ばれて行ったわ」
「なるほど」
僕のお師匠様は女王様にお仕えする魔女である。だから時折いなくなる。もちろんそのために王宮の敷地内に依拠を構えているのだから問題はない。ただまあ、彼女たちは……やや互いに依存しすぎているな……と、いうのが僕の素直な感想だけど。
「おや、お師匠様は客人にお茶の一つも出さなかったようですね」
姫君が座る席にコップが無いことに気付く。指を一振りしてコップと冷茶を引き寄せ、注いで彼女の前へ。姫君は目を輝かせて喜んだ。
「すごい。さすがだわ」
「お師匠様の弟子ですので」
「もしかして、魔法で日焼けしないようにも出来るのかしら」
ひらめいた、という顔で姫君がこちらに期待の眼差しを寄越す。しかし、それは難しいかもしれない。
「多分、日陰を歩くのと変わりませんよ」
「そうなの?」
姫君が首をかしげるので、僕は説明する。日焼けをするのは光が体に当たって焦げるからだ。つまり日焼けを防ぐには光を浴びないようにする必要がある。その動きは魔法だろうが、それ以外だろうが変わらない。であれば、結局解決策も似たようなものになってしまうのだ。
「そうなの……。お母様も、あなたのお師匠様も仰っていましたけど……魔法は万能じゃないのよね」
「そういうことです」
僕の返事に姫君は残念そうに苦笑した。
すると、そのタイミングで部屋の戸が開く。
「待たせましたね。おや、お前も帰ってきていたのね」
「はい、お言いつけの品は全てそろえましたよ」
「さすがだ。助かるよ」
どうも今日はいろんな人に褒められる日だ。さて、それじゃあお師匠様にも日焼けについてご相談しようか。僕より上手い答えを出してくれるかもしれない。




