今から「暑い」って言うの禁止ね
「あーつーいー」
「そうねえ」
「あづいよ~」
「うるさいなあ」
「だって暑い」
暑い暑いと大騒ぎしているのは同じゼミの友人で、私は向かいの席で黙々と課題をこなしている。一応大学は夏休みだけど、それでもゼミはあるし夏休み明けにレポートの提出もあるので、正直あまり休み感はない。まあ、それも悪くないんだけど。
「あ、せんぱーい」
「またいんのかよ」
「お疲れ様」
嫌そうな顔の先輩と、穏やかな笑顔の先輩。友人は嫌そうな顔の先輩に素早く近付いて、暑いだなんだと追い払われている。
「お疲れ様です。今日はゆっくりでしたね」
私は私で、出来るだけ冷静なふりをして穏やかな笑顔の先輩に声をかける。と、先輩はニコニコしながら隣の席に座った。
「早く来たかったんだけど、ちょっと別の宿題に時間がかかっちゃって。寂しかった?」
「ぜ、全然寂しくなんかないです! むしろ席がゆったり使えて課題がはかどったくらいです」
ああ、どうして私はそういうことを言ってしまうのか。友人のように寂しかったと素直に言えていればなあ……。
「そう? 僕は寂しかったよ。早く終わらせて君に会いたいから頑張った」
そういうとこ! そうやって私を甘やかすのを止めていただきたい。なんなの、ホント。この人はすぐ私に会いたいだの好きだのなんだの言ってくる。でもそれに対して、私が素直に喜んで見せたことはない。……一体、なんて言えば良いんだ?
「あ、えっと、外! 暑かったですか?」
そうして結局上手く言えず、変な方向に話を変えてしまう。でも先輩は嫌な顔一つしない。ホント、なんなの。
「暑かったよ。そうだ、アイス買ってきたから一緒に食べよう」
そう言って先輩が取り出したのはパ○コ……二人で半分こするアレだ。
「え」
「はい、どーぞ」
パキッと二つに割って、それぞれの口を取る。そして一つを私に向ける。こ、これは……あーんってした方が……いい、のかな?
「ありがとう……ございます……」
差し出されたアイスに口をつける。先輩は何故か微妙な顔で、目を丸くしている。
「?」
「ご、ごめん。……うん、僕は君のそういうとこ、好きだよ」
「!?」
思わずむせかえる。なんなの、ホントに……。




