Last_Summer
「最後の夏はどうだった?」
嫌な笑みを浮かべる彼女は、我が主の母上に仕える魔女である。私は今、主……この国の末姫様に頼まれて魔女殿にとある薬をもらいに来ている。その薬自体は何のこともない鎮痛剤で、天気の変化で頭痛を引き起こすことのある姫君が常備しているものだ。
しかし、正直に言えば私はここに一人で来たくなかった。一人で来れば、先程のようなことを言われるのが解っていたから。
「どうもこうも。いつも通りの暑い夏でしたが」
「ふうん? それにしてはずいぶん醒めた顔をしている。最後だと言うのに、何もなかったと見た。残念だったね」
「何を仰りたいのか解りかねます」
本当は解っているが、敢えて解らないふりをする。要するに彼女は
『君が大好きな姫様と過ごせる最後の夏はどうだった? 何か関係は進展したかい?』
と聞いているわけだ。進展なんてするはずがないのに。姫君は次の春には嫁ぐことが決まっているのだ。そのようなお方に何を期待するのか。何より姫様本人から
『わたくしがおらずともお幸せに』
と、言われている。これ以上の言葉など有り得ない。
「うふふ。君みたいなヒト、嫌いじゃないよ。楽しいね」
「そうですか。では失礼します」
これ以上余計なことを言われないように、自分も言わないように、用が済んだら素早くその場を去る。彼女と付き合うときの鉄則だ。しかし、そう簡単にはいかず。
「あ、ついでだから、これをあげよう」
「?」
しまった。振り向いてしまった。
「大した物じゃないけどね。この薬を飲んで眠ったものは、目覚めて最初に見た者を好きになるよ」
「な!?」
「あ・げ・る」
そう言って魔女は小瓶を私の服のポケットに滑り込ませる。そして素早く私の背を押して部屋から追い出し
「じゃあねえ」
と戸を閉めてしまった。
私は、これを、どうすべきか。悩みながら歩いている内に姫様の部屋まで着いてしまう。戸をノックし、部屋に入ると姫様が笑顔で迎え入れてくれた。
……この笑顔を、我が物に……? 小瓶がポケットの中で揺れる。




