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今更ダイエット

「もしや、わたくしはダイエットなどすべきなのではないでしょうか?」

 唐突に、私が仕える姫君がそのようなことを言い出した。理由はわかっている。わかっていて、もちろんそのようにすべきだが、しかし心情的には勧めたくない。

「そう、でしょうか。姫君は今でも十分お美しくていらっしゃいますよ」

「そうでしょうか。王子は、そう言って下さいますでしょうか?」

 墓穴を掘った。わかっている。彼女の心は婚約者たる隣国の王子に占められていて、従僕ごときが入り込む隙間などないのだ。そして来月には結婚に向けた準備として、ウェディングドレスの採寸があるのだ。『ダイエット』はそれに向けての彼女なりの努力なのである。

「如何なる王子であれど、姫君の美しさはお認めになるところでしょう。だからありのままの美しさを大切にすべきかと」

「それはそれ、これはこれ。女として美しくある努力は怠りたくありません。それにわたくしはこれから他の国に嫁ぐのです。他の国の民に、結婚に向けた努力すら出来ないような怠け者だと思われたくないですし」

 彼女の、そういうところが好きなはずなのに。どうして自分はそれを否定するようなことばかり言っているのだろうか。恋する王子のため、そして自分を迎え入れる隣国の国民のため、出来る努力は怠りたくない。素晴らしいことではないか。一国の姫として立派ではないか。だと言うのに。だと言うのに、自分はそんな彼女を個人的な感情だけで貶めようとしている。恥ずかしくて、それ以上なにも言えない。

「ありがとうございます。あなたはわたくしが無理をしないよう、気を逸らせないよう、宥めてくれているのでしょう? その心遣いに感謝します。残念ながらご一緒はできませんけど、遠く離れた地でも、あなたの幸福をお祈りしているわ」

 なんて、残酷な。彼女は何も悪くない。しかし残酷だった。彼女が、姫君がいない世界に、わたしの幸福なんてないのに。わたしに出来ることは、可能な限り穏やかな表情で、食後のコーヒーを提供することだけだった。砂糖をわざと入れなかった自分が浅ましくて嫌いだ。

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