陽炎の向こうの君
君に好きだと言ったけど、怒られてしまった。何故か。身分と立場が違うからだ。
「自分の身分をわきまえろ。お前は国を背負う男だろうが。それに相応しい女と結婚して、自分の成すべきことをしろ」
言葉遣いを直せと、俺は彼女に言い続けたけど、結局大して変わらず、最後の最後までがっつりきつい言葉で怒られてしまった。
俺は一国の王子で、いずれは国王になる。しかし彼女は戦争孤児で、彼女を引き取った人はしっかりした人だったけど、それでも王家に入れられる血筋ではない。それを、俺が彼女に言わせてしまったのだ。そのことが悔しい。
父王はそのことを知ってか知らずか、俺に見合いをするようにと言い出した。相手は隣国の王女だそうで、一番末の姫をこちらにもらい受けたいのだと言う。
「まるで物みたいな言い方ですね」
ついトゲのある言い方をしてしまったけど、父上は苦笑して
「多かれ少なかれ、国を背負うものは人ではなくなるものだ」
と言った。また自分の小ささを感じていたたまれなくなった。
相手の姫君は隣国へ伺った際に何度か見かけたことがあった。大人しそうな女性で、目が合うと少し気恥ずかしそうに微笑んでくれたことを覚えている。同時に、彼女の隣に立つ下男から睨まれたことも。随分大事にされているんだな、という印象だった。同時に、彼女とは違うな、とも。
俺の好きな娘は気が強くて負けず嫌いで、努力家で、フットワークが軽くて……軽すぎて今は遠くに行ってしまった。背中を押したのが自分であるから何も言えず、ただただ応援しているようなことを言うしかなかった。本当は隣にいて欲しかっただなんて、もう言えないのだ。
「……王子様は、誰をお探しかしら」
そう、婚約の挨拶に行った先で姫君に問われた。
「どなたか、意中の方がいらっしゃるのですね。ごめんなさいね、わたくしで」
もう、顔から火が出そうだ。俺は本当にダメダメじゃないか。
「ねえ、でも、あなたはこれから国を背負う方でいらっしゃるのよ。背筋を伸ばしなさい。情けない顔はしないで。はい、正面を見る。王子の顔をなさいな」
どうも、見込み違いだったようだ。隣に立つ彼女は大人しい姫君ではなく、俺の背を叩いて、並んで走ってくれる妃だった。




