「冷やし」にすればなんでも売れる
「雨が必要だ」
「いかがなさいました? お師様」
「いや、なんでもない」
ベランダから街を見渡す我が国は疲弊していた。
雨が長らく降らないために、どこもかしこも乾燥している。乾ききってしまったのは人の心もそうであるようで、女王国の最高権力者である女王陛下と、その側近である魔女……私への批判がことさら拡大していた。どうにかしなくては。なんとか、雨を、そして潤いを。隣国にはあれほど降る雨が、どうしてここまで届かないのか、考えなくては。
我が国は山に囲まれている。山を越えれば海もあるが、いかんせん険しい山で、魔女以外は越えることが叶わない。そしてその山に、雨雲も阻まれていた。どちらの方面から来る雨雲も、山を越えられずに、その手前で含んだ水を落としきってしまう。どうしたら、どうしたら……。
「お師様、少し休まれないと体に毒です」
「そんな暇はないよ。皆が水を求めている。このままでは暴動が起きる」
「ですが」
「疲れたのなら、お前は先にお休み。私はまだやることがある」
我が身を心配してくれるのはありがたい。しかし、まだ立ち止まることはできない。なにしろ動き出してすらいないのだ。
「私に、出来ることはなんだ」
魔法とて無限ではない。なにかを成そうと思えば代償がある。だから、私に出来る範囲でどうにかしなくてはいけないのだ。
「……?」
ふと机を見ると、冷たいお茶が置かれていた。弟子が用意していてくれたらしい。カップの中に薄緑色の茶が揺れていて、その上に氷がいくつか浮いている。浮いている……?
「雨雲を……呼ぶ……」
雨雲が山に引っかかって届かぬと言うのなら、少し浮かしてやれば良いのでは? それは、どう、なのだろうか。可能、不可能の前に、それは、それは……。
「しかし、他に国民を救う手立てがあるのか……?」
煮詰まった頭はもう正常に物事を考えられないような気がして、思いついたたった一つの案に縋り付くほかない気がした。そうすることで考え得るデメリットなど、些細なもののような気がした。
「私が、国を救うんだ」
そうして私は道を踏み外した。




