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ここまでは、夏の予行練習

「最近は雨が少ないのですね」

「そろそろ雨期も終わりでしょう。本格的に暑くなって参りますよ」

 主であるその少女が空を見上げて呟くので返事をする。我ながら如才ない返事だったと思う。しかし少女が見ているのは山の向こうの国に住まう王子のことだ。その王子は数ヶ月前に我が女王国に会談に来た。先ではあるが、いずれ隣国を治めるものとして挨拶に伺ったのだと。まだ年若い青年だったが、穏やかな物腰で好感の持てる人柄だった。

 ……それは、間違いない。隣国自体、悪い噂はない。むしろ現国王の穏やかな人柄と、それを支える部下達の優秀さで、ここ数年めざましい発展を遂げており、おこぼれに預かろうという国だって多いのだ。そこの王子ともなれば、それは悪い人間ではないのだろう。でも気に入らない。何故か。

「どうしたのです? 気難しい顔をされていますよ」

「いえ、先日の王子はまた涼しくなる前にこちらにいらっしゃると聞きましたので、いつ頃かと思案しておりました」

「まあ」

 余計なことを言ったと思った。少女の頬が赤く染まる。彼女が彼を思っているのは明白だった。先方が彼女を認識しているかは解らないが。

 彼女は女王国に君臨する女王陛下の末娘である。跡継ぎである長姉は会談の場で挨拶をしていたが、彼女は同席したのみだ。私は代々女王陛下とその一族に仕える執事の家系で、一応本家ではあるものの、彼女同様末弟であり、家督を継ぐのは長兄だ。だからだろうか。彼女に同情にも似た淡い気持ちを持つのは。それでも彼女は末子であれど女王陛下の直系だ。彼女は彼女で国の役に立つべく与えられる役割がある。

 その役割を思うと胸が痛む。彼女だってうら若き乙女なのに、誰かを思うことすら許されず、国のために身を捧げて嫁いで行くのだ。それを彼女はどう思うだろう。嫌だとは思わないのか。

 そういうことを考えてしまう時点で私は彼女を見くびっていたのだと気付かされるのは、次に隣国の王子が訪ねてきたときだった。

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