スポーツ始めるなら今だよ
「そう言えば最近、朝に走ってるんだ」
「朝に?」
夏休みも半ばのその日。久しぶりに会った友達、りんちゃんへの近況報告中に思い出したこと言ってみた。
夏休みに入ってから、どうにも朝起きられなかったり夜更かししたりで親に怒られがちだ。そこで高校生の兄が部活の朝練前に走り込みをしているので着いて行くことにしたのだ。
「兄さんが部活の前に走ってるから、私も一緒に走ってるの。早起きすると一日が長く感じられてお得な気がするよ。体も軽いし」
「へー。私も一緒に行きたいけど……」
と、りんちゃんは声を落とした。言いたいことは解る。きっと、りんちゃんのお母さんが許さないだろうな、ということだろう。
りんちゃんは元々体が丈夫ではない。月に何回か通院しているし、体育の授業も見学のことが多い。そんな彼女が早朝にランニング、なんて言い出したら間違いなく心配するし、もしりんちゃんが強く主張すれば着いて行くと言いかねない。それならまだ良いけど、最悪私との付き合いを止めさせようとするだろう。りんちゃんのお母さんはそういう人だ。
「他に一緒に出来ることがあると良いんだけど」
りんちゃんが寂しそうに言う。私も頷いて考えるけど、そもそも体を動かすのは心配されるだろうし……。
「あ、図書館行く?」
「図書館?」
「うん。夏休み明けに全国共通模試あるでしょ。それのための勉強を一緒に図書館でしようよ」
私の提案にりんちゃんが顔を明るくする。さっそく報告してくると立ち上がって部屋を出て行った。
「ダメだった」
「ええ」
「……塾に行ってるんだから友達同士でする必要ないって」
ええ、それとこれとじゃ話が違くない? と首をかしげたら、りんちゃんが更に続けた。
「夏休みに毎日出歩くなんて不良の始まりだって」
「ごめん、ますます意味が……」
うん、まあ。発言の意味はわからないけど、彼女の母親はそういう人だな、という嫌な納得感だけはあった。多分、りんちゃんを手元に置いておきたいのだ。そういう意図であれば何を言っても無駄だ。私は泣く泣く彼女の家を出る。




