あえて山に登る
「なにもこんな暑い日に山に登らなくたって」
「だって、海の日だから」
「だって、の意味がぜんぜんわからないんですけど」
そんな会話を経て、我々は山頂まで到達した。大して高い山というわけではないが、それでも夏なので暑いし、汗が止まらないし、日差しがきつい。二人で山小屋に駆け込んで水分を補給する。
「あー、おいしい」
「生き返るう」
それから売店でお高いアイスを買って食べる。近所のコンビニの何倍もする、高級アイスだけど、その分とてもおいしかった。
「で、なんで海の日に登山なんですか」
「こう、あまのじゃく的な」
「それだけ?」
「それだけ」
そっかー。それだけの理由で山に誘われたのか。別に登山は嫌いではない。むしろ好きだ。だから同僚である彼女からの誘いにも、こうして応じているのである。でも、これだけ暑い最中に登るなら、もう少し理由が欲しかったかな。
「あ、でも暑い中誘ったのは悪かったなとは思うんだよ」
と、何やら彼女が弁明を始めた。
「誘ったときの予報よりも暑いし、他の人も全然いないしさ。だから、お詫びって言えるほどのものかはわからないけど、この後ビアガーデン予約してるよ」
「えらい。さすが。着いてきた甲斐がありました。さあ、行きましょう」
「変わり身早すぎない?」
アイスも食べ終えたことだし、これ以上日が高くなる前に下山しよう。善は急げ、冷たいビールが私を待っている!!
そそくさと片付けて山小屋を後にした。急ぎつつ、しかし慎重に山を降りる。下山の方が注意が必要なのだ。ビールのために歩を急いで、文字通り転げ落ちたらしゃれにならない。
無事に麓の駅までやってきたら後は電車に乗るだけだ。
「暑い。でも大丈夫。ビールが待っているのです」
「どれだけ楽しみなのよ」
「そうですね、海の日の登山に付き合ってもいいと、思えるくらい」
そういって彼女を急かした。




