バテたくてバテたんじゃないからね
「あついー」
その声と共に客先から帰ってきた後輩が椅子にへたり込んだ。外は相当な暑さで、彼女の顔は汗まみれである。
「おつかれ」
「せんぱーい。暑いですー」
「はいはい」
大騒ぎする椅子の上で伸びたまま大騒ぎをする後輩に卓上扇風機を向けてやる。それから給茶機で冷たい麦茶も持ってきてやった。
「あ、ありがとうございます。もう一杯お願いします」
「図々しい小娘め」
そう言いながらも、もう一杯差し出してやると、一杯目と同様に一気飲みして、ようやく少し落ち着いたようだ。冷却シートで顔やら首やらを拭いている。できるだけそちらを見ないようにしつつ、打ち合わせの結果を聞くことにした。
「先方はなんだって?」
「あー、基本的には今のままで問題なしだそうです。でもマネージャーがとんちんかんで、言ってること意味わかんないから、次は先輩にも来て欲しいそうです。議事録書いたら先輩にも送っておきますよ」
「えー、行きたくない……」
こちらのぼやきは無視して、後輩はパソコンを立ち上げる。面倒だなあ。客先に行くのも面倒だけど、マネージャー……こいつも後輩なんだが、また嫌そうな顔するんだろうな。こっちだって、好きでマネージャー氏のお守りをしているわけではない。
「まー、しょうがないですね。あの人、先輩のこと目の敵にしてますし。部長が悪いんですけどお」
そうなのだ。今、そのマネージャーが取り仕切っているプロジェクトの補佐を頼まれた際に、紹介してくれた部長が
『彼は経験豊富だし、頼れるから、困ったことはなんでも相談すると良いよ。君もまだまだ先輩に頼りたいことがあるだろう?』
などと発言したのがいけない。そのせいで、いらぬ敵愾心を燃やされてしまったのだ。
そして、もう一つ。横で議事録を書いている小娘は気付いていないっぽいが、たぶんマネージャー氏はこいつに気がある。だと言うのに、こいつは気付かないし、マネージャー氏の相手をするのが面倒とかで、何かと言えば
『あ、じゃあ先輩に聞いておきますね』
とか言ってマネージャー氏を袖にするから、更に俺にヘイトが集まるのだ。
しかし。だからといって、それをこいつに言うのもなー、大人げないよなー。そういうわけで、日々謎の軋轢を感じながら仕事をしている次第である。




