もう踊らないってさ、インド映画
一歩踏み出してくるっとターン、手を伸ばしてピタッと停止。もちろん何の意味もない、ただただ映画で観た動きを真似しているだけだ。
「すずちゃん、上手だね」
何がだ。そう思って振り向くと、りんちゃんが笑顔で立っている。そうだ。私は彼女に踊りを見て欲しかったんだ。だから彼女が通りそうなところで、適当に踊っていた。
「上手じゃないよ。ただ映画の真似してただけ」
「映画?」
「インド映画」
「なるほど」
ではご一緒に。なんて彼女は言って、私の手を取る。それ、また何か違う踊りじゃない? ワルツとか、社交ダンス的な、そういう? の。知らないけど。
「……上手、だね」
「そう? こっちこそ適当だよ。すずちゃんの手を取ったら体が勝手に動いちゃった。変だよね。でも楽しいな」
りんちゃんが楽しいなら、まあ、いいか。考えることは止めにして、2人でくるくる踊っている。
学校の階段にある踊り場は無駄に広くて、夕方だからかオレンジ色の光で埋め尽くされていた。りんちゃんの短い髪が、ふわっと広がって、光に溶けるようでとても綺麗だ。誰かに写真に撮って残しておいて欲しいけど、でもこの空間に私とりんちゃん以外の人はいらないから、それは難しい。
「ずっとこうしていたいな」
りんちゃんがポツリとつぶやく。私もそう思う。でもそう思うって事は、そうできないってことだ。
「りんちゃん、時間大丈夫?」
「大丈夫……じゃない」
「そうだよね。そろそろ帰ろう。今日、病院行かないといけない日でしょ」
私が指摘すると、りんちゃんはむすっとして、動きを止めた。彼女は体が弱いから、月に何度かは病院で検査をしているらしい。詳しいことは知らない。子供で、ただのクラスメイトでしかない私には大人は何も教えてくれないのだ。
「明日また踊ろう。明日も明後日も。ずっとさ」
「約束だよ」
「約束。駅前まで一緒に行くよ。りんちゃんのお母さん、そこで待ってるんでしょ」
渋るりんちゃんの手を引いて、昇降口に向かう。私も彼女も、大人に逆らえるほど子供でも、大人でもなかった。




