所感としては梅雨明け
雨上がりの庭を散歩したいと、お嬢様が言うのでお付き合いする。しかし彼女の付き人である私に他の選択肢はない。彼女の後をついて回り、身の回りの世話をする。それが私の仕事なのだ。
「バラの葉が輝いている。露草の花はもうすぐかしら」
ぬかるみなど気にもとめず、お嬢様は美しいモノだけを目に入れて歩いて行く。本当にそうであるならば、きっと私のことなど視界にはないのだろう。それでも時折こちらを振り返って、先程のような些細な言葉をこちらに寄越す。
「私、雨上がりって好きよ。世界が輝いて見えるわ」
「お嬢様の方が輝いておいでですよ」
「そういう話じゃないの」
では、どういう話なのか。しかし、どうであれ、私にはそう言う他ないのだ。彼女を気分良く過ごさせることが仕事なのである。
「ねえ、あちらの東屋でお茶にしても良いかしら」
「かまいませんが、準備を致しますので、しばしお待ちを」
微笑んで快諾する彼女を確認してから、持っていた布巾で椅子とテーブルを拭き清め、内線でアフタヌーンティーのセットを用意させる。十数分と待たずにお茶の用意が出来た。
「ありがとう」
「ごゆっくり、お過ごしください」
「雨はまだ降るかしら」
しばらくお茶と菓子を楽しんでから、思い出したようにお嬢様は振り向いた。
「どうでしょうか。そろそろ雨期は終わりと、今朝の新聞では伝えておりましたが」
そう返事をすると、彼女は心なしか目を曇らせた。
「雨を楽しみにしておいででしたか?」
「いえ、そうではなくて。……お父様が……。あのね、ここだけの話にしておいてほしいのですけど」
お嬢様の仕草に合わせて耳を彼女の口元に近づける。
「お父様が、乾期になったら見合いをしないか、と言っていたの」
「それが、お嫌だと?」
「嫌……なのかしら。気が進まないわ」
彼女は浮かない顔でカップに口をつけ、目を伏せた。まあ仕方がないのかもしれない。箱入り娘が、いきなり外の町に放り出されるのだ。しかも見知らぬ男の妻として。
「お嬢様」
そんなお嬢様に言えることは特にない。特にないけど。
「少なくとも、どこへ行こうと私は着いて参りますよ」
「絶対よ」
そう言って、彼女の不安を和らげるくらいのことしか、出来ないのだ。




