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また置いてきた、ビニール傘

「あれー、ない……」

 放課後、帰ろうと思ったら傘がなかった。何故だ。今朝、家を出るときは持っていたはずなのに。

「あら、立香。傘がないのですか? どこかにお忘れなのでは?」

 友達の清姫も、自分の傘を取り出しながら首をかしげる。

 でも、どこかって言われても、朝はまっすぐ学校に来ただけだし……あれ、そうだっけ?

「コンビニだ」

 今日は母さんが早番だから、お弁当がなくてコンビニに寄ったんだ。そこで忘れてきた……間違いない……。

「入れて差し上げたいのですが、私、今日は塾なので方向が違います」

「そうだよねえ。あ、それに急がないと遅れちゃうじゃん。私は他の子に頼むか、駅まで走るかするから先に帰ってて」

「すみません」

「謝らないでよ。また明日ね」

 申し訳なさそうに、先に校舎を出る清姫を見送る。

 にしても、結構な雨だ。どかどかと音を立てて校舎に打ち付けている。台風かなってくらいの勢いの雨で、走るのは少し大変そうだ。

「どうしよっかなー」

「こんなところで、どうしたんだ?」

「あ、渡辺先輩」

 声をかけられて振り向くと、そこには渡辺綱先輩がいた。状況を説明すると、先輩はなるほど、と頷く。

「では、俺と帰るか」

「え」

「男物の傘なら大きさもあるし、藤丸一人くらいなら余裕で入れる。無理強いはしないが」

 どうする、どうする立香。憧れの先輩と相合い傘のチャンス! でも私のせいで先輩が濡れたりしない? いやでも入れてくれるって言うのを断るのは逆に失礼では?

「お、お願いします!」

 1秒にも満たない検討の上、全力でお願いすることにする。先輩は穏やかな笑顔で「では行こうか」と先を行った。


 渡辺先輩と並んで駅に向かう。雨はやっぱり土砂降りで、道には所々大きな水たまりが出来ている。

「藤丸、そんなに離れていると濡れるぞ」

「ひぁっ!?」

 先輩に肩を抱き寄せられて、口から心臓が飛び出そうになった。顔が、顔が近い!!

 しかし先輩は特に気にするでもなく、普通の様子で前を見て歩いている。うーん、あんまり意識されてないのかな。なんていうか、妹的な?

 なんて少し落ち込んでいる間に駅に着いた。途中までは同じ電車だけど、少なくとも相合い傘はこれでおしまいだ。

「ありがとうございました。濡れずに済みました」

「しかし電車を降りてから濡れるのでは?」

「傘は最寄り駅前のコンビニで忘れたっぽいので、そこで探してみます。なければ買います」

「そうか」

 そして電車に乗る。先輩は、降りる駅の数駅前で、改まったように口を開いた。

「スマホの連絡先、教えてくれるか」

「え、あ、はい!」

「ありがとう。帰ったら連絡する。じゃあまた」

 先輩は手を少し振って、電車を降りていった。私は、顔を赤くしてぽかんとするしか出来ずにいた。


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