雨が降ると会えないのかな?
「雨が降ると会えないって言いますけどね」
どん! と空になったジョッキをカウンターに叩き付けながら、目の据わった後輩が話し始めた。
「むしろ雨なら、誰にもバレることなく2人きりになれるんだから、そっちの方が良いのでは?」
「何の話だよ」
「七夕ですよ。先輩は何を聞いていたんですか」
聞いてたけどわかんねえよ。口の減らない後輩は、つまみの塩辛を食べながら不満げな顔をこちらに向けた。
そもそも今日は部署の飲み会でビアガーデンに行く予定だったのだ。しかしあいにくの雨で中止となり、そそくさと帰ろうとしたところで、この後輩に捕まったのである。
「先輩、せっかくなので飲んでから帰りましょう」
「……まあ、言えでも飲むし、飲んでいっても同じか」
「わーい」
という会話を経て、俺はこいつと会社と駅の間にある居酒屋で、だらだらしている。そしてビール一杯で酔っ払った後輩が、冒頭の通り絡んできた次第だ。
「そういや、今日は七夕なんだな」
「えー忘れてたんですか」
「関わりのないイベントなんでな」
後輩は呆れたようにため息をつく。それから何故か俺の口に焼き鳥の砂肝を入れた。
「なんでそんなに枯れてるんですか。まだまだいけますよ」
「仕事忙しいし、趣味も忙しいし、他人の相手をする暇とかないし」
「あんまりな言い分ですね……」
あ、この砂肝うまいな。まだ更に残る砂肝を、もう一つ口に入れる。塩気が強くて、皮がカリッとしてて、めっちゃうまい。後輩も気に入ったのか、飲み物のおかわりと一緒に、もう二本頼んでいる。
「正直、七夕どうこうより、うまい砂肝の方が重要だし」
「まあ、そこは個人の好みですけど」
「でも、お前もこれ好きだろ?」
「好きですけど」
2人でたこわさや、ポテサラ、刺身盛り合わせと、せっせと箸を動かす。そういえば後輩は2杯目からはウーロン茶だ。それがいい。なんか酒に弱そうだし、そうしてくれ。
「案外、あっちでもこうやって、だらだらしてるかもしれんし」
「?」
「織り姫と彦星、だっけ? 雨雲で見えない向こう側でさ、こうやって飲み食いしながら、一年間どうだったか駄弁ってるかも」
「それ、素敵ですねえ」
「だろ」
そうして引き続き、だらだら飲み食いする。ビアガーデンより、うまいし気楽だ。雲の向こうの2人のことはいざ知らず。俺は雨に感謝した。




