鼻の頭に汗
「あっつぅ」
あまりの暑さにうめき声が漏れる。頭や背中や、内股や、そこかしこがべたべたしんなりして、気持ちが悪い。
「立香、汗やっば」
「そっちもね」
隣を歩く友達の鈴鹿が、私と同じく汗だらだらでうめいている。何故だ。何だってこんな暑い時期に、校庭で短距離走などせねばならぬのだ。ちなみに、やはり友人である清姫は
「この暑さは燃える恋!」
などと意味のわからないことを言って、元気いっぱい走っている。彼女は暑いのには強いのだ。逆に冬は撃沈している事が多い。
「そろそろ、終わりにするぞー。片付けはじめー」
「はあ、終わった」
教師の号令で、ようやく走るのを終えた。ささっと片付けをして素早く校舎に向かう。と、昇降口に上がったところで声をかけられた。
「藤丸、体育だったのか」
「あ、渡辺先輩」
やばい。こんな汗だくベタベタの時に、憧れの先輩と遭遇とか。会えるのはうれしいけど、でも今、私きっと汗臭い。
「すごい汗だな」
「うう、そうですよね。外めっちゃ暑くて」
そう答えると、先輩は持っていたタオルで私の顔をこすった。
「ふええええ!?」
な、な、なになに!? 思わず変な声が出る。
「鼻に汗をかいていた」
だ、だから拭いたの? なんだ、それだけか……。なんてがっかりしつつも、嬉しいような。だって、それだけ私は先輩にとって気安い相手ということで。まあ、単に意識されてないだけかもしれないけど。
「……すまない、女性の顔に気安く触れるべきではなかったかな」
「!? い、いえ大丈夫です! 全然! 触っていただいて大丈夫ですので!」
……何言ってんだ私。触って欲しいって……変な子じゃん。しかし渡辺先輩はふっと微笑んで私の髪に触れる。
「そんなことを言われるとは。期待、してもいいのだろうか?」
「え?」
「そろそろ、行った方が良さそうだ。俺も次の授業に行かねば。ではまた」
そして、先輩は行ってしまった。えー? い、今の何だったの……? たぶん私の顔は、さっき汗をかいたときより真っ赤になってる。だって今すごく熱い。




