夜でもアサガオ
「最近この花をよく見かけるのですが、なんていう花ですか?」
「これはアサガオ。小学校で育てなかった?」
「トイレにしかいなかったので」
そう弁解する長谷川カコを、横に並ぶ吉川景斗が「そうだったね」と受け止めた。
長谷川カコは人間ではない。都市伝説を具現化した物である。事象としては八百万の神に近いかもしれない。といっても彼女にそこまでの神性はなく、万人が共通して認識する事象が人型を取っているだけだ。つまり彼女は人間ではなく、怪異が人型を取っているに過ぎないので、人間の常識に疎いところがある。それを知っている吉川景斗は、たまにこのように疑問に答えていた。
「なんでアサガオって言うんですか?」
「花が朝に開くからっていうね。昼くらいにはしぼむんだよ」
「気付きませんでした」
ふうん、と彼女はしぼんだアサガオの蕾をしげしげと眺める。今は夕方で花はしおれている。こんなにくしゃくしゃになった花が本当に朝になったら開くのか。今までそれを気にも止めていなかった彼女にはわからなかった。
「じゃあ、明日の朝一緒に見に行こうか」
「え」
「明日は朝一の授業は入っていないから、時間あるよ。今日はこのとおり、帰りも早いし」
「……じゃあ、お願いします」
彼の穏やかな提案に彼女は照れたような顔で頷いた。いつもそうだ。吉川景斗は長谷川カコにどこまでも優しい。穏やかな好意に対して、人間でなく、それまでの人付き合いや、積み上げてきたコミュニケーションの実績がない彼女には、どう返して良いかわからない。それを彼に聞き返すのも違う気がして出来ずにいる。
「じゃあ8時半に学食でいいかな」
「大丈夫です。お願いします。あ、でも」
何かを言わなくてはいけなくて、でもそれがわからない。だというのに呼び止めてしまった。長谷川カコは少し悩んでから続ける。
「えっと、もう少し、早くてもいいですか。それで、よければ朝ごはんをご一緒させてください」
「喜んで」
彼がなんの躊躇もなく受け入れてくれたことで彼女はほっとする。同時に不安になる。彼は、いつまでこうして並んで歩いてくれるのか。




