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月も星もない夜

「まだ寝ないんですか、綱さん」

「すまない立香。起こしてしまったか」

「なかなか寝付けなくて」

「明日には京に着く。しっかり休んでおけ」

 私と綱さんは旅をしている。鬼を引き寄せやすい体質の私がそれらを呼び込み、彼が退治する旅だ。今は山城国に入る手前の駅家で休憩中で、まだ少し早いけど休もうとお互い床についた。しかし綱さんは気付いたら床から出てすだれを開けて、窓の外を見ている。気付いた私もそっと起き上がって彼の隣に並んで座った

 最初の頃の私は本当に頼りなくて、歩いて彼について行くのが精一杯だった。今でも戦いの場面で役立っているとは言い切れないけど、前よりはましになったと思う。少なくとも負ぶって駅家まで連れて行ってもらうような醜態はもう晒さない。

「京に戻ったらお別れでしょうか」

「どうだろうな。あの道真公の考えなど俺にはわからない」

「もう少し」

「うん」

「えっと、もう少し、綱さんとご一緒、出来たらなと思います。私のわがままですけど」

「俺は」

 綱さんはその後を続けずに黙ったまま空を見上げている。今宵の空は曇りがちで月も星も見えない。その暗闇に綱さんは何を見ているのだろうか。

「もし、分かれて暮らすことになっても」

 綱さんは目を空から私に向けて続けた。

「はい」

「好きなときに屋敷に顔を出せ。いや、俺が行くか」

「私のところに、ですか? でも私がどこに住まうことになるかわかりません。帝と同じく内裏の奥になるやも」

「それでも行く」

 綱さんの顔はいたって真面目で、冗談を言っている風ではなかった。だから私もきちんと姿勢を正してお答えする。

「はい。お待ち申し上げております」

 そうか、と綱さんは僅かにうなずいて、それからまた私に床を勧めた。俺ももう寝るから、立香もと。それぞれ床に入ってしばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。私も寝よう。そして明日は京に帰って、それから、それから。

 彼と、もう少し、いや、もっとずっと。どうしたら一緒にいられるのか、考えるには疲れすぎていて、私もすぐに眠くなる。

「ああ、でも」

 綱さんが私に会いに来てくれるだなんて、妻問いみたいだな、なんて甘い夢のようなことを考えながら眠りにつく。

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