ありがとう、クールビズ
「ふいー、あっちぃ」
客先での打ち合わせを終えて自社に戻る。ネクタイを外してジャケットを椅子の背に放る。自社内であればクールビズということで大分楽な格好が出来るからありがたい。
「あ、先輩お帰りなさい」
「おう、ただいま」
「……ネクタイ、外してしまったんですね。残念です」
同じ部署の後輩女子はネクタイ好きである。きりっと締まっているのがいいらしい。しかしこいつのきっつい性格を考えるといつか引っ張られそうで怖い。怖いから言わないけど。
「暑いんだよ、あれ。ネクタイしないからわからないだろうけど」
「高校のときはしてましたよ。ブレザーでしたから。私はネクタイ過激派なので季節を問わず、着用してました」
「夏は暑いだろ」
「暑いです。でも、そういう問題じゃないんですよ」
どういう問題なんだよ。その後もネクタイをしてくれと言う後輩を無視して席に着き、パソコンを開く。
「あ、それいいですね」
「は?」
「腕まくりですよ。好きな女子、多いと思いますよ」
……よくわからんな。後輩曰く、長袖のシャツの袖をまくっているのが良いそうだ。
「こう、男性の腕の太い感じとか、血管が浮いてるのとかに男らしさを感じるんですね」
「他にも腕まくってるやついるだろ。あいつとか」
そう言って少し離れた席の後輩男子を指さすと、後輩女子は微妙な顔をした。
「あれは、ちょっと違いますね」
「なにが」
「まくりすぎです」
曰く、肘下くらいまでが良いのであって、肩近くまでまくってしまうのは“なんか違う”のだそうだ。女子の好み、細けえなあ……。
「いやだって、あそこまでまくるなら半袖で良いじゃないですか」
「まあ、そうだな」
「でもあの人は『半袖はおじさん臭いから嫌』だそうです」
「へえ」
そろそろ半袖のシャツを出そうと思ってるんだけどな。いいじゃないか、半袖。楽ちんだし。肩周りが動かしやすいし……。
「まあ、なんにせよ、好みの問題なんですよ。私はネクタイと肘までの袖まくりを押しているのです」
「そうか」
よくわからないが、こいつの好みに対する細かさはわかった。頑張って合致する男を捜してほしい。
「そういうわけで」
「おう」
「ネクタイしてください」
「ネクタイしてるやつ探せよ」
「いないんですよ!!!!!」
知らねえよ!!!! 仕事しろよ!!!!! 横でわめく後輩女子がうるさくて、俺がネクタイをしてしまうまであと1時間ほどだ。




