クーラー、始動
「エアコンつかないかなー」
「そろそろだと思うけどね」
ここは私が通う大学のゼミ室で、室内にいるのは私と友人と、あと先輩たち。先輩たちは提出期限の近いレポートがあるとかで、手を高速で動かしていて会話には参加しない。私と友人の学年のレポートは先週末が提出期限だったので、こちらは気が楽なのである。とはいえ明日には返却されるので、またそれのブラッシュアップが必要になるのだけど。
「たぶん明日か明後日にはエアコンつくと思うよ」
と、先輩が言う。手は先程よりはゆっくりだけど動いてはいるので、レポート作成はまだ終えていなさそうだ。
「あ、レポートはほとんど終わってるよ。今ページ番号のずれを直してる」
「え、お前終わったの?」
別の先輩が信じられないという顔で振り向く。二人はなんやかんや言いながら互いの進捗の話を始めてしまった。
「残念?」
「そ、そんなことないよ」
友人がからかうように聞いてきた。レポートを終えた先輩と話せなくて残念だね? と、良い笑顔で言ってくるけど、別にそんなことはない。ていうか静かだからもう少しレポートしててほしい。
「私は残念な気持ちと……先輩の真剣な横顔を眺めていられる幸せの半々ね」
「ほんっとに素直だよね」
「ありがとう」
「褒めてないし」
まだレポートを終えてない先輩に好意を寄せる友人は幸せそのものみたいな顔で先輩たちの様子を見ている。普段、目つきが怖いからこっちを見るなと言われている彼女だけど、今は先輩に彼女を気にする余裕がないから、好きなだけ見ていられるのだろう。なんていうか、懲りないなと思うし、恋する乙女をしていてかわいいな、とも思う。
私はどうかなあ。あんまりそういう気分ではない。レポートを終えたという彼は、わりとしょっちゅう私に対して好意を伝えてくるけど、なんていうか少し怖い。嫌いとかではないけど、何だろうなあ。私のパーソナルスペースに自分以外の人を入れるのが、あまり得意ではないのかもしれない。
「どうしたの?」
「あ、すみません」
「かまわないよ。さっき言ってたエアコンはまだつかないけど、代わりに扇風機の電源入れようか?」
「……お願いします」
穏やかで、優しいんだけど。うーん。顔に当たる風が、やけに冷たかった。




