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「君、くせ毛なんだ」「いえ湿気のせいです」

 黙々と、カタカタと、静かに静かに。

「あれー、外崎さん癖毛なんだ?」

「違いますが」

「でも髪うねってるよ」

「湿気で広がっているだけです」

「そんな隠さなくてもいいのに。ダイジョーブ、癖毛でもかわいいって」

 湿気並みに鬱陶しいのでそれ以降は黙殺する。すると話しかけてきたチャラい男性は何事かを毒づきながら去って行った。

 引き続き仕事に勤しむ。定時まであと1時間。今日は何が何でも定時帰宅したい。急いで急いで。

「外崎さん、この後なんだけど」

「無理です」

「少しだけ」

「無理です。週明け月曜日の業務時間内にお申し付けください」

 それ以降は先程と同様に黙殺する。誰が好き好んで金曜日の夜におっさんどものお酌などせねばならぬのだ。それで仕事上のメリットがあれば考えるが、経験上、ただセクハラの頻度が上がるだけなので断固お断りである。

 その後も黙々と手を動かす。今日、定時で上がるために私は朝からちゃんと準備を進めてきた。細かい申請系や、ちょっとした調べ物なんかは朝の内に終わらせたし、昼前の打ち合わせの議事録も昼ごはんを終えてすぐに作って先方に送った。後の時間は一人で考えながら資料を作る時間にして、予定通りに手を進めて、今は見直しをしているのだ。これは週明けにもう一度見直して、それから提出するので、いっそのこと終わらなくてもかまわないし、終わればそれでいい。

 よし、あと5分だ。そわそわしながらもノートに目を走らせ、やり残したことがないか確認する。大丈夫そう。

 ……なんかメールきた。

『Xについての資料をお送り願います』

 殺意を覚えつつも、心の中で舌打ちをするに留めて資料を送る。すでに定時を2分も過ぎている。メールの送信が完了すると同時にパソコンの電源を落とし、荷物を鞄に放り込んで、いつもより大きい声で挨拶をしてオフィスから走り去る。

「あ、外崎さん、良かったら」

「良くないので失礼します!」

 先程のチャラ男が何か言っているが知ったことではない。私は無事に会社から脱出した。



「いやっほう!!!!!」

 そして友人と家の近くの居酒屋のカウンターでだらだらしている。

「今週が終わったぞーーーーー!!!!」

「ビールがうまーーーーーい」

 先程までのおとなしいOLはもういない。ここには騒ぎながら飲んだくれるアラサー女しかいないのだ。

「あ」

「げえ」

 後ろで声がして振り向いた。そこにはチャラ男がいた。さあ、どうする私。

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