湿気との戦い、奮闘中
「つらい……」
朝、唐突に妻の嘆きが聞こえた。その悲壮な声に驚いて洗面所へ向かうと、鏡の前でヘアブラシ片手にうなだれている妻がいる。
「どうしたんだい」
「髪がどうにもならない」
「???」
「髪が! 湿気で広がってまとまらないの!」
悲鳴を上げる妻の髪は確かに爆発していた。彼女は髪が細く、加えてくせっ毛のため、湿度に関係なく朝は爆発している。結婚当初は人間の髪がこのように広がることに衝撃を覚えたものだが、すでに30年、毎朝見ていれば慣れもする。
にしても、確かにいつもに増して妻の髪は広がっていた。
「諦めてシャワーでも浴びてくれば?」
「やっぱりドライヤーとブラシだけじゃどうにもならないわね」
そうため息をついて、彼女は脱衣所へ移動する。私も顔を洗って歯を磨き、髪を梳く。私は幸い髪の癖はないので少しブラシを入れれば寝癖くらいなら収まるのだ。
それからキッチンで昨晩の残りのごはんと味噌汁を温め、冷蔵庫からゆで卵や納豆を取り出す。そうこうしているうちに子供たちも起きてくる。
「「お父さんおはよ」」
「……おはよう」
双子の娘たちの顔を見て笑い出しそうになった。妻とまったく同じように髪が爆発している。しかし年頃の娘の寝起きの様相で爆笑したとあらば、いつまですねられるかわかった物ではない。我ながら、よく我慢したと思う。すぐに洗面所から娘2人の悲鳴が聞こえて、妻と入れ替わりでシャワーに入る音が聞こえる。
「どうかしら」
「だいぶ落ち着いたと思うよ」
シャワーから出てきてヘアセットを終えた妻がどや顔をしている。たぶんあと10分そこらで娘たちも同じような顔で出てくるのであろう。そう思いながら朝ご飯をテーブルに並べた。




