あじさいの花びらって「ガク」なの、知ってた?
「あじさい、咲いてる」
「もうそんな時期なんだ」
ふと気づいて口に出すと、思いがけず、一緒に歩いていた彼女が返事をくれた。それから彼女は「そういえば」と続ける。
「あじさいの花ってガクなの、知ってた?」
「どういう意味?」
曰く、花びらっぽい四角いところは花のガクで、その中心の丸っこいのが蕾で、それがこれから開くのだと。
「知らなかった」
「少し前にテレビで言ってた」
俺と彼女は親公認の許婚で、実家から少し離れた大学に進学したときから一緒に暮らしている。でも授業のコマ割りやバイトなんかもあって、そこまで生活を共にしている訳ではなかった。だから、こうしてたまに一緒にいると、まだまだ彼女のことで知らないことがいろいろあると気づかされる。テレビを見るんだな、とか。
「どんな番組見てたの?」
せっかくなので話題を広げてみる。
「クイズ、なのかな。昔あったトリビア的な番組。今度一緒に見る? おもしろいよ。なんかいろいろ世の中知らないことだらけだな、って気づかされる」
「うん。見たい」
じゃあ、とその番組の日時を教えてもらう。が、その時間はいつもバイトを入れている時間だった。
「それなら録画しておくから、帰ってきてから一緒に見よう」
「ありがとう」
そこまで見たいかって言われると、そうでもないんだけど。でも少しでも共通の話題というか、一緒に過ごしたかった。
一応許婚ではあるけれど、親同士が勝手に決めてきた、親戚同士の付き合いなので、彼女のことをそこまで知っているわけではない。けどぽつぽつと話す彼女の横顔が綺麗だったから、もう少しその横顔を見ていたいと思ったのだ。
『許嫁にされるのは別に嫌じゃないよ。だって、私あなたの顔嫌いじゃないもの』
許婚に決められたすぐ後に彼女が俺に言った言葉だ。自分が取り立てていい顔をしているとは思えない。それでも彼女はこの顔を悪くないと言ってくれて、歩み寄ってくれるのだ。だったら自分も、と思うのは不思議じゃない。親に決められたことだけど、俺たちはこうやって死ぬまで並んで歩くんだから。




