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虹がかかった

「吉川先輩、虹が綺麗ですよ」

「ほんとだ。いつの間にか雨が上がってる」

 ふと気がついたら、窓の外に虹が架かっていた。だから横で作業をしていた先輩に声をかけたら、笑顔で応じてくれた。そういう時間が悪くないと思う。

 私は人間ではない。都市伝説である。吉川先輩は人間だ。家系があやかしや怪異と関わりが深いから、人間ではない私にも普通に接してくれている。吉川先輩の友人である森先輩は私が人間ではないと薄々気づいていそうで、なんとなく壁を感じる。けど、それが普通の対応だと思う。

「ねえ、花子ちゃん」

「その呼び方止めてください」

「かわいいのに。僕は好きだよ、その名前」

「そういう問題じゃないんです!」

 こういうとこ! 吉川先輩はどうやら私のことが好きらしい。らしい、というのは、こういうふんわりした好意を示してくることはあるものの、明確に私個人について言ってくることがないので断言しかねる。

「それはそれとして、せっかくだから外に見に行こうか」

「え?」

「虹」

 そう言って吉川先輩は立ち上がる。部屋を出て行く先輩に、私も慌ててついて行った。



 私たちがいたゼミ室のあるゼミ棟は屋上が開放されている。先輩の後を追ってエレベーターに乗り屋上に出ると、同じように何人かが虹を見に来ていた。

「綺麗だね」

「そうですね。こんなにはっきり七色見えるのは、なかなかないですよね」

「君の方が綺麗だよって言った方がいい?」

「言わなくていいです」

 もう言ってるし。そういうことを言われて私はどうしたらいいのか。私の友達である八田由子なら確実に

『おいしくいただけばいいと思うわあ』

と、言うに違いない。そりゃ由子はそうであろう。彼女はそういう怪異なのだ。でも私は違う。そういうタイプの怪異ではない。だからこそ、どうしていいのかわからないのだ。私の伝承に、異性との付き合い方を定義するものはなくて、つまり自分で考えなくてはいけないのだ。

「ねえ、花子ちゃん」

「呼び方!」

「虹、きれいだね」

「……そうですね」

 そう、だから。

 難しいことを考えるのは後にしよう。

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