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今日は半袖

 あっちぃなあ。そう思いながら額の汗を拭う。大学のキャンパス内は蒸されたように暑くて、教室に入ってしまえばエアコンが効いているのだが、移動中はきつい。まだ夏じゃねえだろ……という気持ちと、むしろ梅雨だから湿度が高くて余計に暑さを感じるんだよな……という諦めの板挟みで、とにかく暑い。

「森せんぱーい!」

 俺には何も聞こえない。この暑さの中、ますます暑くなるようなことは考えたくないのだ。

「森せんぱいってばー!」

 時折肉食獣の様な視線をこちらに向ける後輩女子の呼ぶ声など、俺の耳には入らない。多分気づいたらかじられる。

「ちょっとー、森先輩! 無視なんてひどいじゃないですかぁ」

「……考え事してたんだよ」

 横から覗き込まれて、結局返事をしてしまった。後輩、八田由子はにぃっと笑って隣を歩く。えー、ついてくんの……。

 俺はこいつが苦手である。一見は甘い声で慕ってくる美人の後輩だ。しかし目が肉食獣じみていて怖い。あとたぶん、間違いなく、人間じゃない。こいつ、八田と、その友人の長谷川カコは人間ではない。妖怪やおばけではでなさそうだけど、とにかく生きている人間であるかと言われれば絶対に違う。なんつうか、匂い? 気配? そういうものが違うのだ。俺の友人である吉川は普通に接しているし、なんなら長谷川のことを気に入っているようだけど俺はごめんだ。俺は! 人間の! 女子と! お近づきになりたいのである。

 しかし、昔から人間の女子からはあまりモテない。デカいとか、怖いとか言われる。そんなことは……。まあ、デカいんですけど!

「森先輩? 何一人で百面相してるんですか。ゼミ棟、通り過ぎてますよ」

「お、おう」

「それはそれとして。先輩、今日は半袖なんですね。すごくいいと思います。先輩、腕太いですねえ。触っていいですか?」

「なんでだよ。流れるように寄って来やがって」

「いいじゃないですかぁ。減らさないように調節しますから」

「何をだよ!」

 減るって何だよ! え、何、マジでかじられるの?

「かじったりはしませんよ。あ、でも先輩さえ良ければ舐めさせてください」

「良くねえ!」

「ダメですか。残念です」

 油断も隙もあったもんじゃねえな、ほんと。そうこうしている内に目的地であるゼミ室に着いたので中に入ると、吉川が一人で本を読んでいた。

「おつかれー」

「お疲れ様。あれ、森、八田さんと一緒だったんだ。デートでもしてきたの?」

「そうなんですぅ」

「んな訳ねえだろ!」

吉川はのんきに笑っている。くそう、自分が狙われていないからって! いつか人間の彼女作って驚かせてやんよ。 

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